ラーンの大柄な体躯は、狭く湿った遺跡の通路を塞ぐように進んだ。壁には奇妙な模様が刻まれており、イシェが懐中電灯の光で照らすたびに不気味な影が踊る。
「ここ、何か変だな」
イシェは眉間に皺を寄せながら言った。彼女の視線は、床に落ちている石片に向けられていた。それは、かつては精巧な彫刻の一部だったのかもしれないが、今は無惨にも砕けていた。
「何だ、また怖くなったか?」
ラーンは笑って肩を叩き、巨大な剣を軽々と振り回した。しかし、その笑顔にはいつもの明るさがなく、イシェの視線を感じながら、少しだけ意識的に作り smile を作っているようだった。
「あの日以来、遺跡は違う」
イシェは呟いた。ラーンの顔色が一瞬だけ曇った。あの日、彼らはヴォルダンの兵士に襲われた。仲間を失い、貴重な遺物を奪われた。ラーンは深く傷ついたが、それを隠すように、いつも以上に豪快な態度を取っていた。
テルヘルは冷静に状況を分析し、遺跡の地図を広げた。
「この石片は、以前発見した壁画と同じ模様のものだ。あの壁画は、この遺跡の奥深くに何かがあることを示唆している。危険だが、そこには大穴の可能性もある」
ラーンの瞳に再び光が宿った。イシェは彼の表情を見つめ、胸を締め付けられるような感覚に襲われた。彼女は、ラーンが失ったもの、そして彼がその喪失を埋めようとしていること、それを理解していたから。
「よし、行こう!」
ラーンは力強く言った。イシェは小さく頷き、テルヘルと共に、遺跡の奥へと足を踏み入れた。後ろ髪を引かれるような気持ちと、同時に、何かが変わる予感がした。