ビレーの酒場「荒くれ者」の賑やかな喧騒が、ラーンの耳を撫でるように流れてきた。イシェがいつものように帳簿を眺めながら苦い顔をしていた。
「また借金か?」
ラーンはイシェの肩を叩き、豪快に笑った。
「気にすんなよ、イシェ。今日は大穴が見つかる予感がするんだ!」
イシェは眉間にしわを寄せた。
「そんな楽観的な言い方はやめなさい。あの遺跡は危険だって何度も言ったでしょう。それに、テルヘルが持ち出した情報も怪しいんじゃないか?」
ラーンの顔色が少し曇った。テルヘルはヴォルダンへの復讐を誓う謎の女性だった。その冷酷な美しさとは裏腹に、どこか暗い秘密を抱えているように見えた。彼女の情報源は不明だが、いつも高額の日当を提示して遺跡探査を依頼してきた。
「でも、あの遺跡には何かがあるって信じてるんだ。伝説の宝が眠っているって噂を聞いたことがある」
ラーンの目は輝き、イシェを説得しようと熱く語った。
「もし本当に大穴が見つかったら、ビレーのみんなを救えるかもしれない。借金も返せるし、新しい生活を始められる。それに…」
ラーンの視線がテルヘルの背中に向けられた。彼女はカウンターで酒を飲んでいた。その後ろ姿には、復讐への執念を感じさせるものがあった。
「あの女は何か隠している…もしかしたら、あの遺跡が彼女の復讐に繋がる鍵なのかもしれない」
イシェはため息をついた。ラーンの言葉には説得力があった。しかし、どこか引っかかるものがあった。テルヘルの目的、そして遺跡の真実。そして、それらがビレーの運命とどう関わってくるのか。イシェは不安を感じながら、ラーンの後ろ姿を見送った。
酒場の喧騒の中で、ラーンの言葉がかすかに聞こえた。
「さあ、イシェ!大穴を掘り当ててみせよう!」
その言葉は、希望に満ち溢れているように聞こえた。しかし、イシェの心には、不吉な予感だけが広がっていった。