ラーンの粗雑な斧の振る舞いは、埃を巻き上げながら石壁を砕いた。イシェは眉間に皺を寄せ、小さく溜息をついた。「また無駄な力の使い方ね。」
「いや、この岩は硬いんだ！ほら、見てみろ！」ラーンが誇らしげに示す岩の欠片は、確かに頑丈だった。しかし、その割れ目はイシェの目から見ると、遺跡の奥深くへと続く通路への入り口を塞いでいるように見えた。
「あの奥に進みたいなら、もっと繊細なアプローチが必要よ。」イシェは小さなハンマーを取り出し、慎重に石を削り始めた。ラーンの力任せの攻撃と異なり、彼女の動作はまるで彫刻家のように優雅だった。
その時、遠くからテルヘルの声が聞こえてきた。「何か発見でも？」
「いや、まだ何も…」イシェは言葉を濁した。テルヘルは目的のためには手段を選ばない女だ。遺跡の奥深くにある秘密を、自分たちの力だけで手に入れたいという気持ちは、イシェとラーンの間では共有されていた。
ラーンの力強い斧の音が、埃と共に空気を満たし、イシェの喉頭を通過する息をわずかに震わせた。彼女は自分の気持ちを抑え込み、石を丁寧に削り続けた。
「よし、わかったぞ！この岩は外れそうだ！」ラーンが叫ぶと、イシェは小さく頷いた。彼の力任せの攻撃は、時に不必要な破壊をもたらす。しかし、その粗暴さこそが、時には壁を打ち破る力を秘めていることを、イシェは知っていた。
テルヘルは近づき、石の隙間から覗き込んだ。「奥には何かがあるようだ…」彼女の目は冷たく光り、口元には薄暗い笑みが浮かんでいた。イシェは、彼女が何を企んでいるのか、ほんの少しだけ理解した気がした。そして同時に、自分たちの運命を左右するかもしれないその秘密に、恐る恐る足を踏み入れることになったのだった。