「おい、イシェ、ここって本当に安全か？」
ラーンの声がビレーの遺跡入り口付近で反響した。イシェは彼の背後に位置し、地図を広げていた。
「何度言ったかわからないけど、この遺跡は過去に調査済みだ。危険な箇所は記録されている。それに、テルヘルが言うように、今回は大穴に繋がる可能性が高い。そのリスクを考えたら、安全面で言えば十分だ」
イシェの言葉は冷静だったが、ラーンの不安は晴れない。彼は剣を握りしめ、周囲を見回した。崩れそうな石壁、薄暗い通路、そして静寂。不気味な静寂は彼に不安を掻き立てる。
「でもな、あのテルヘルってやつ、本当のことを言ってるのか？大穴なんて、ただの噂じゃないのか？」
ラーンの疑念は、テルヘルの目的不明瞭さに由来していた。彼女は高額の日当と引き換えに遺跡探索を依頼したが、その真意は未だに不明だった。
「あの女の目的はわからない。ただ、遺跡への執着は本物だ」
イシェは地図を閉じ、ラーンを見つめた。「もし大穴が存在するなら、それは我々にとって大きなチャンスになるだろう。それに、テルヘルが本当に危険なことを企んでいるなら、我々は彼女を止めることができるはずだ」
彼女の言葉にラーンは少しだけ安心した。イシェの冷静さと判断力にはいつも助けられていた。
「よし、わかった。じゃあ、行くぞ！」
ラーンは深呼吸をして、先へ進もうとした。その時、通路奥からかすかな音が聞こえてきた。「あれは何だ？」イシェも耳を澄ますと、軽やかな金属音と足音だった。
「誰かいる…」
ラーンの声が震えた。「誰だ？出てこい！」
影の中からゆっくりと人物が現れた。それはテルヘルだった。彼女の表情は険しく、手には光る短剣が握られていた。
「遅かったな。お前たちは一体何をしている？」
テルヘルの鋭い視線にラーンとイシェは言葉を失った。その時、テルヘルは何かを尋ねたように口を開き、しかしその言葉は聞こえなかった。ラーンの耳には、まるで彼女の心が問いかける声が響いた。「なぜ、お前たちはここにいるのか？」