ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑ってジョッキを空にした。「おい、イシェ！また大穴見つけたぞ！」
イシェは眉間にしわを寄せながら、ラーンの肩を軽く叩いた。「またか？あの遺跡は危険だって言っただろう。一体何を見つけたんだ？」
「見つけたぞ！古代の宝箱だ！まさか中に金貨が入っているんじゃないのか！」ラーンの目は輝いていたが、イシェは彼の興奮に冷静さを保った。「宝箱か…でも、あの遺跡は罠だらけだと聞いたことがある。本当に安全かどうか確認したのか？」
その時、店の扉が開き、テルヘルが静かに歩み寄ってきた。彼女の鋭い視線はラーンとイシェを包み込むように、そして少しだけ冷たい空気を漂わせた。「何か面白い話があるようですね。宝箱だと？私が確かめてみましょうか。」
ラーンの顔色が変わった。「いや、いや、テルヘルさん、大丈夫だ！僕らが確認したし…」
「確認？」テルヘルは薄く笑った。「あなたはいつもそう言うわね。でも、私は安全第一主義者よ。特にヴォルダンと戦うために。だから、私が確認する必要があるのよ。」
ラーンの表情が曇り始めた。イシェは彼の肩を軽く叩き、静かに言った。「ラーン、テルヘルさんの言う通りだ。今回は危険すぎるかもしれない。彼女に任せれば安心だ。」
ラーンの視線は揺れ動いた。彼は自分の無謀さを認めようとしないが、イシェの言葉とテルヘルの冷たい眼差しに屈した。小さく頷くと、「わかった…頼むよ、テルヘルさん。」
テルヘルは満足げにうなずき、テーブルに置かれた地図を指さした。「では、明日の朝に遺跡に向かおう。準備はできているのかい？」
ラーンの表情は暗くなった。彼が本当に「大穴」を見つけられる日は来るのだろうか？それとも、いつまでもこの小さな街で、日暮らしの冒険を続けるだけなのか？彼の心には、漠然とした不安が芽生え始めていた。