「準備はいいか?」ラーンが大きな剣を肩に担ぎながらイシェに尋ねた。イシェは小柄な体を引き締め、細身の杖を軽く握りしめていた。「いつも通り準備万端よ。今回は特に慎重に進みたいわ。あの遺跡は危険だって聞いたことがあるのよ」
「大丈夫だ。俺が先頭を切るから」ラーンは自信満々に笑った。イシェは彼の背中に手を当てて深呼吸をした。ラーンの行動力は魅力的だが、その無謀さにいつもハラハラさせられる。
「よし、行こう!」ラーンが遺跡の入り口へと踏み出した。イシェは後を追いかけながら、後ろからテルヘルがゆっくりと歩いてくるのが見えた。テルヘルの冷たい視線を感じながら、イシェは小さくため息をついた。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。ラーンの足音だけが響き渡る静寂の中、彼らは慎重に進んでいく。壁には古代の文字が刻まれており、イシェは興味深そうに観察していた。
「何だこれは?」ラーンが大きな石碑を発見した。「何か書かれているな」
イシェが近づいて石碑を調べると、そこに商圏に関する記述があった。「どうやらこの遺跡はかつて重要な貿易拠点だったようだ。様々な地域の人々が行き交い、財宝が集まっていたらしい」
「財宝か…」ラーンの目が輝いた。「これは大穴への手がかりになるかもしれない!」
テルヘルが冷たく言った。「遺跡を探索する目的は財宝ではない。忘れないでください。」
イシェはテルヘルの言葉に頷きつつも、心の奥底ではラーンの言葉に少し期待を抱いていた。もしかしたら、本当に大穴を見つけられるかもしれない。そして、その財宝があれば、自分たちは自由になれる。
「さあ、進むぞ!」ラーンが先に進んでいった。イシェとテルヘルは互いに顔を見合わせた後、ゆっくりと彼の後を追いかけた。遺跡の奥深くへと続く階段を降りていく彼らの背中には、商圏の栄華を物語る古代の石碑がそびえ立っていた。