「おい、イシェ、待てよ！」ラーンが息を切らしながら振り返ると、イシェは眉間に皺を寄せ、静かに遺物らしき石を磨いていた。テルヘルは、その様子を冷ややかに見つめていた。「急ぐなと言っただろう。あの洞窟、罠だらけだぞ」とイシェは冷静に言った。「だが、宝が—”ラーンが言葉を詰まらせると、テルヘルが鋭い視線で彼を睨みつけた。「宝だと？ここには宝など存在しない。お前たちの仕事は遺物を採取し、持ち帰る事だ。それを忘れるな」ラーンの肩が落ち込んだ。イシェはため息をつきながら石を satchel にしまい込んだ。「よし、行きましょう」と立ち上がった。テルヘルが先導し、三人は薄暗い洞窟の奥へと進んだ。
洞窟内は湿気が多く、不快な臭いが漂っていた。ラーンの足元には、苔むした石畳が広がっている。壁には、何かの生き物が彫り込まれた模様が、ぼんやりと浮かび上がっていた。イシェは慎重に足取りを確かめながら、周囲を観察していた。ラーンは、興奮気味に壁を叩き、「ここだ！何かあるぞ！」と言った。しかし、イシェは冷静に「そんな事はない」と否定し、彼の手を引っ張って進ませた。
奥へ進むにつれ、空気が重くなった。石畳の隙間から、不吉な緑色の液体がゆっくりと流れ出ているのが見えた。「これは…」イシェの声が震えた。「何か邪悪なものを感じませんか？」ラーンは、イシェの顔色を伺いながら、不安そうに頷いた。「そうだ…何か嫌な予感がする」
その時、洞窟の一角から、不気味な音が響き渡った。それは、まるで、何かの生き物がうめいているような声だった。ラーンの顔色が一変し、彼はテルヘルに助けを求めるように視線を向けたが、テルヘルはただ冷酷な笑みを浮かべていた。「これは、面白い展開だ」と彼女は言った。「さあ、楽しんでみようじゃないか」
イシェは恐怖を感じながらも、冷静さを保とうとした。だが、その瞬間、洞窟の天井から、巨大な影がゆっくりと降りてきた。ラーンは絶叫し、剣を構えたが、その影は彼を飲み込むようにして襲いかかってきた。
イシェは、ラーンの姿が見えなくなるほど巨大な影に呑み込まれていく様子を目の当たりにし、絶望した。テルヘルは、その光景を興味深そうに観察し、「ふむ…面白い」と呟いた。そして、ゆっくりと歩き出し、影が消えた洞窟の奥へと進んでいった。イシェは、ラーンの無残な姿が目に焼き付き、吐き気を催した。
「あの男…」イシェは、テルヘルの背中に唾を吐き捨てた。「いつか必ず…」彼の目は、復讐の炎で燃え上がっていた。