ラーンの粗雑な剣の扱いにイシェが眉間に皺を寄せた。「もっと慎重に、ラーン。あの石碑、触れただけで崩れそうじゃないか」。ラーンは苦笑しながら剣を収めた。「ああ、心配性だなイシェ。ほら、見てろよ、この程度で崩れるようなもんだろ」。彼は石碑を軽く叩くと、埃が舞っただけだった。「ほら、言っただろ?」
その時、背後から冷たい声が響いた。「いい加減にしろ、二人は」。テルヘルが鋭い視線で二人を見下ろしていた。彼女の唇は薄く引き締まっており、何かを察知したかのような不穏な空気を漂わせていた。ラーンの軽い冗談も、イシェの慎重さも、彼女には些細なものだったのだろう。彼女は目的のためには手段を選ばないタイプの人間だ。
「遺跡は危険だ。特にここビレー周辺の遺跡は」。テルヘルは石碑に近づき、その表面を指さした。「この記号群を見てみろ。これはヴォルダン軍が使用していた古代言語だ。彼らは何かを探しにここへ来た。そして、その力は今なお眠っているのかもしれない」。彼女の言葉は重く、ラーンの胸に不気味な影を落とした。
イシェはテルヘルの視線を避けて、石碑の模様をじっと見つめた。「ヴォルダン…?」彼の唇がわずかに動いた。「あの国のことか…」彼はかつて、ヴォルダンの軍勢が故郷を焼き払い、家族を失ったという話を聞いたことがある。その記憶は今も彼の中に深く刻まれていた。
ラーンはイシェの肩に触れ、「大丈夫だ、イシェ」。と安心させるように言った。しかし、彼の言葉にも力はない。テルヘルの言葉は彼らにとってあまりに重く、希望を奪うようなものであった。彼らは遺跡探索という冒険を求めてきたが、その先に待ち受けているものは何なのか、誰も分からなかった。