ビレーの夕暮れは、いつもより早く訪れたように感じられた。ラーンがいつものように酒場で大声を上げて笑い話していると、イシェが険しい顔で近づいてきた。「何かあったのか?」ラーンの問いかけに、イシェは小さく頷いた。「テルヘルから連絡があった。遺跡の調査を中止するよう命じる内容だ」
「中止?なんで?」ラーンの眉間にしわが寄った。「大穴が見つかるかもしれないって話だったじゃないか」
「その遺跡には危険があるらしい。ヴォルダン軍が関与している可能性もあると…」イシェは言葉を濁した。ラーンは酒をぐいっと飲み干して立ち上がった。「そんな理由で諦めるわけにはいかないだろう!俺たちは探検者だ!」
イシェはラーンの熱意に少しだけ心を動かされたが、どこか不安な気持ちも拭えなかった。テルヘルからのメッセージには、遺跡の近くで起きた事件についての記述があった。謎の死体、奇妙な紋章、そして消えた研究者たち…。イシェは、自分が何かを察知しているような気がした。
翌日、ラーンとイシェはテルヘルに会いに行った。彼女はいつものように冷静だった。「調査中止の理由は、私が判断しました」とテルヘルは言った。「この遺跡は危険です。あなたたちには関係ありません」
ラーンの顔色が変わった。「おい、テルヘル!お前は何を言っているんだ?俺たちの夢を諦めるつもりか?」
「夢?そんなものは…」テルヘルは言葉を濁した。「私は、大切なものを失った。二度と同じ過ちを繰り返さないために…」彼女は目をそらし、何かを思い出すように呟いた。「哀悼の儀式…。あの日、何が起きたのか…」
ラーンとイシェは言葉を失った。テルヘルの過去を知ることはできなかったが、彼女の声には深い悲しみと、何者かに対する強い憎悪を感じた。
その夜、イシェは一人でビレーの街を歩いた。夕暮れの空は茜色に染まり、静寂が支配していた。イシェは、テルヘルの言葉と、遺跡の謎について考えていた。そして、ある決意をした。ラーンと一緒に遺跡を探検し、テルヘルの過去を解き明かすことだ。たとえそれが危険な道だったとしても…。