「よし、入ろう!」
ラーンの豪快な声がビレーの街外れにある遺跡の入り口に響き渡る。イシェはいつものように眉間にしわを寄せた。
「ちょっと待てよ、ラーン。あの崩れた石壁を確認してからじゃないか。あの辺り、以前も崩落があっただろう?」
ラーンの足が止まった。「ああ、そうだな。じゃあ、ちょっと見てくるか」
イシェの懸念は的中した。石壁には亀裂が入り、一部が崩れかけている箇所があった。ラーンは軽く蹴飛ばし、崩落を誘発しないよう慎重に確認した。
「大丈夫みたいだ。よし、行こう!」
テルヘルは二人を見下ろすように立っていた。「急ぐな。遺跡は焦るものではない」
彼女の言葉は常に冷静で鋭い。イシェはテルヘルの存在に少しだけ安心する。彼女には何か秘密があるような気がしていたが、その真意はまだ掴めない。
「よし、行こう!」
ラーンが先陣を切って遺跡へと入っていった。イシェとテルヘルも後に続く。遺跡内部は薄暗く、湿った土の匂いが漂う。壁には謎の文様が刻まれており、時折、不気味な音が響いてくる。
「ここら辺で何か見つかったことはないか?」
ラーンの声が響き渡る。イシェは懐中電灯を操作し、壁をくまなく探す。
「特に何もないようだな」
イシェがそう言うと、ラーンは肩を落とした。「またつまらない遺跡か…」
その時、テルヘルが何かを発見した。「ここだ!」
彼女は崩れた石の下から小さな箱を取り出した。箱は金で覆われ、複雑な模様が刻まれている。
「これは…!」
イシェは息を呑んだ。この遺跡には伝説の遺物「咎人の宝」が眠っていると伝えられていた。その宝は莫大な富と力を与えると同時に、所有者に災厄をもたらすと言われている。
ラーンは興奮気味に箱を開けようとしたが、テルヘルは彼の腕を抑えた。「待て。この箱には呪いがかかっているかもしれない。慎重に開ける必要がある」
彼女はゆっくりと箱の蓋を開け始めた。中から光る石が取り出された。それはまるで心臓のように脈打つように輝き、その周囲を暗黒の影が包んでいた。
「これは…!」
イシェは言葉を失った。ラーンの顔には狂喜の表情が広がる。テルヘルは石を見つめ、深い闇に沈んだ瞳をわずかに光らせた。
その時、遺跡の奥から不気味な声が聞こえてきた。それはまるで人間の悲鳴であり、獣の咆哮だった。
「なんだあれ…」
ラーンは恐怖の色を浮かべていた。イシェも背筋がゾッとするような感覚に襲われた。
「これは…咎人の怒りだ」
テルヘルは静かに呟き、石を握りしめた。彼女の瞳には、かつて失ったものを取り戻すという決意と、何か別のもの、深い闇が宿っていた。