「よし、今回はあの崩れかけた塔だ」ラーンが地図を指さした。イシェは眉間に皺を寄せた。「また危険な場所かい?あの塔は噂で呪われているって聞いたぞ」
「そんなの迷信だ!俺には関係ないわ」ラーンは豪快に笑った。「ほら、テルヘルさんも一緒じゃないか?」
テルヘルは薄暗い顔色で頷いた。彼女の目は、まるで塔の影の中に何かを見据えているようだった。
ビレーを出発した一行は、荒れ果てた街道を進むにつれ、空気が重くなっていった。ラーンの明るい声も、イシェの慎重な問いかけも、全てがどこか遠くで響いているようだった。
塔に近づくにつれて、不気味な静けさに包まれた。崩れた石造りの壁には、何かの影がわずかに動いているように見えた。イシェは背筋を凍らせた感覚に襲われた。「何かいる…!」
「どうした?イシェ」ラーンの問いかけに、イシェは言葉を失った。その時、塔の上から不規則な音が響き渡った。まるで石が転げ落ちるような音だった。
ラーンは剣を抜いた。「何者だ!出てみろ!」
しかし、塔からは返答はなかった。ただ、空気がより一層重くなり、まるで何かが呼応するように、イシェの心臓が激しく鼓動し始めた。
テルヘルは静かに剣を構えた。「警戒しろ。何かが近づいている」
ラーンの背筋に冷たいものが走った。彼はイシェと目配せし、塔へとゆっくりと足を踏み入れた。