ラーンの豪快な笑いがビレーの夜空に響き渡った。「よしっ!今日はいい酒だ!」
イシェはため息をついた。「また大穴の話か。いつになったら現実を見るんだい?」
「いや、でも今回は違うんだって、イシェ。テルヘルが言ったんだよ?あの遺跡には『秘宝』があるってさ。俺たちはそれを掘り当てて、ビレーの皆に富をもたらすんだ!」
ラーンの瞳は輝いていた。イシェは彼の熱意に少しだけ心を動かされた。だが、冷静に考えると、テルヘルの言葉にはいつも何か裏がありそうな気がしていた。
「あの女は一体何を企んでいるんだろうな…」イシェは呟いた。
最近、テルヘルが遺跡探しの依頼を頻繁に持ちかけてくるようになった。報酬も以前より高額で、明らかに何か目的があるように思えた。
「イシェ、お前も信じろよ!俺たちは必ず大穴を掘り当ててみせる!」ラーンの言葉に、イシェは思わず視線をそらした。彼の瞳には、かつての輝きが失われていることに気が付いた。「あの日」以来、ラーンは何かが変わってしまったように思えた。
「あの日」から、テルヘルとの距離感が変わったのはイシェだけではない。ラーンも、テルヘルに何かを打ち明けるかのように話すようになった。イシェにはその内容を聞く権利がないような気がして、胸が締め付けられる思いだった。
ビレーの酒場で、ラーンがテルヘルに向かって、「お前は俺たちをどこへ連れて行こうとしているんだ?」と尋ねた。
テルヘルの答えは、イシェには聞こえなかった。だが、ラーンの表情から何か大きなことが明らかになるような気がした。イシェはラーンの視線を感じ、顔を赤らめた。
「あの日」以来、イシェは自分の気持ちを整理することができなかった。ラーンへの想いは募るばかりなのに、彼はテルヘルに惹かれているようだった。イシェは自分がラーンのために何ができるのか分からず、苦しんでいた。
ラーンの目がイシェをじっと見つめた。「イシェ…お前は俺にとって大切な仲間だ。いつもそばにいてほしい」
イシェはラーンの言葉の意味を理解した気がした。彼は自分の気持ちを打ち明ける決意をした。
「ラーン…」
その時、テルヘルが立ち上がり、「そろそろ行こう」と告げた。ラーンの視線は再びテルヘルに向けられた。「よし、行こう!」
イシェはラーンの後ろ姿を見つめながら、胸に秘めた想いを叫びたくなった。しかし、言葉は喉の奥に詰まったままだった。