ラーンの大げさな雄叫びがビレーの朝の静けさを掻き消した。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼を睨みつけた。「また遺跡で宝を見つけるなんて、夢を見るな」。ラーンはまるで耳に届いていないかのように、剣を肩越しに担いで、陽光きらめく丘陵地帯へと歩き出した。「今回は違う！俺の直感が言ってるんだ！」
イシェはため息をつきながら彼の後を追った。いつも通り、ラーンの熱気に巻き込まれてしまうのだ。ビレーの賑やかな市場を抜け、やがて視界が開け、廃墟のような遺跡の入り口にたどり着いた。そこにテルヘルが既に待っていた。「遅っな。準備はいいか？」テルヘルの鋭い視線がラーンとイシェを刺すように感じた。
「よし、行こう！」ラーンの元気な声は、どこか不安定に聞こえた。「今回は必ず何か見つかるはずだ」。イシェは彼の言葉に少しだけ期待を寄せる。しかし、遺跡内部は予想以上に暗く、重苦しい空気に包まれていた。彼らは慎重に進み、崩れかけの石畳を踏みしめながら、奥へと進んでいく。
テルヘルが突然立ち止まり、壁に描かれた奇妙な記号を指さした。「これは…」。彼女は眉間に皺を寄せた。「ヴォルダンの紋章だ」。イシェは息をのんだ。ヴォルダン。その名前は恐怖と憎しみに満ちていた。
ラーンは緊張した表情を見せながらも、剣を握り締め、「気にすんな！俺たちは何も恐れないぞ！」と言った。しかし、彼の声にはいつもの自信がなかった。遺跡の奥深くで、何かが彼らを待ち受けているような気がした。
彼らはさらに進むにつれ、壁に刻まれた紋章が増えていった。そしてついに、巨大な石室にたどり着いた。そこには、煌めく宝ではなく、ヴォルダンの軍服を着た亡霊のような影が立ち尽くしていた。「告別…」と、その影は低く唸った。ラーンは思わず一歩後ずさった。イシェの顔色が変わった。テルヘルは静かに剣を抜き、ゆっくりと影に近づいていった。
「お前たちの目的は？」テルヘルの声は冷たかった。「ヴォルダンへの復讐か？それとも…」彼女は影の視線を感じながら、言葉を続けた。「何か別のものか」。影は何も答えず、ただテルヘルを見つめていた。イシェはラーンの肩を握りしめ、彼の顔色を見つめた。ラーンの目は恐怖で輝いていた。
「告別…」影の声が再び響き渡ったとき、イシェはラーンに気づかずに涙を流した。あの日から、ラーンの無邪気な笑顔は消え、彼の目は常に影を抱えるようになった。そして、イシェは自分の夢を諦め、ラーンと共にヴォルダンへの復讐に身を投じることを決意したのだ。