冷たい風が吹き荒れるビレーの朝。ラーンがいつものように寝坊したため、イシェはひとりで朝食の準備をしていた。粗末なパンとチーズを頬張りながら、彼女は遠くを見つめた。
「今日もあの遺跡か…」
イシェの視線は、町から少し離れた場所にある吹きさらしになった丘に向けられていた。そこには、朽ち果てた石造りの塔がそびえ立っている。地元では「呪われた塔」と呼ばれ、誰も近づこうとはしないが、ラーンは「大穴」があるのではないかと目を輝かせていた。
「あの塔には危険なものがあるって聞いたんだけど…」
イシェの不安な気持ちは、ラーンの豪快な笑い声で吹き飛んだ。「大丈夫だ！俺が守るから！」彼の言葉には、いつもの自信と無謀さが詰まっているように聞こえた。
その時、扉が開き、テルヘルが入ってきた。彼女の鋭い視線は、イシェに一瞬だけ向けられた後、ラーンに向けられた。「準備はいいか？」
「いつでも行くぞ！」ラーンの笑顔は、吹きさらしの風にも負けなかった。イシェは彼らを見つめ、ため息をついた。
「…わかった」
3人は塔に向かって歩き出した。背後から吹きつける冷たい風は、まるで警告のように感じた。