「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂では奥深くにある部屋には、未開の魔石が眠っているらしいぞ」
ラーンの豪快な声は、ビレーの狭い路地裏にこだました。イシェは眉をひそめた。「またそんな話を信じてるの? ラーン、あの塔は危険だって聞いたわよ。何年も前に崩落したんだって」
「大丈夫だって!俺が先頭を切って安全確認するから」ラーンは胸を叩き、自信満々に笑った。イシェはため息をつきながら、その後ろに続くテルヘルを見た。
テルヘルはいつものように無表情だった。彼女はラーンの計画に賛成したわけではなく、単に遺跡の探索という手段で目的を達成するため、彼らを必要としているだけだった。彼女の真の目標はヴォルダンにある。そして、そのために必要な情報や資源は、この荒れ果てた土地に眠っているはずなのだ。
「準備はいいか?」ラーンの声が響いた。イシェは小さく頷き、テルヘルも静かに剣を手に取った。三人は崩れた塔へと向かった。
塔内部は暗く、埃っぽかった。崩れた石が散乱し、足元には危険な穴が開いていた。ラーンは先頭を歩き、イシェとテルヘルは後をついていった。
「ここなら大丈夫だ」ラーンは自信ありげに言ったが、イシェは不安を感じていた。塔の奥深くから不気味な音が聞こえてきたのだ。
その時、突然床が崩れ、ラーンは深い穴に落ちてしまった。「ラーーン!」イシェの声が響き渡った。テルヘルは冷静に状況を判断し、イシェに「ロープを出せ」と指示した。
イシェは慌ててロープを取り出した。テルヘルがロープを投げ下ろすと、ラーンの声が聞こえた。「大丈夫だ!何とか這い上がれる!」
イシェは必死にロープを引っ張った。ラーンはなんとか穴から抜け出すことができた。しかし、彼の顔には恐怖の色が浮かんでいた。
「あれは何だったんだ?」ラーンは震える声で言った。
その時、穴の奥から巨大な影がゆっくりと現れた。それは、何世紀も前に滅んだと言われる古代の魔物の亡霊だった。
「逃げろ!」テルヘルは叫び、剣を構えた。イシェは恐怖で言葉を失い、ラーンは立ち尽くしたまま動けなかった。
三人は絶体絶命のピンチに陥った。しかし、その時、テルヘルの瞳に冷酷な光が宿った。彼女は魔物に向かって歩み寄り、低い声で言った。「君臨する時が来た」