「よし、今回はあの崩れた塔だ」
ラーンが興奮気味に地図を広げた。イシェは眉間にしわを寄せる。
「また危険な場所じゃないか?あの塔は魔物が徘徊しているって噂じゃ…」
「そんなの気にすんな!きっと何か面白いものが見つかるはずだ!」
ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。いつも通り、彼の計画性はない。だが、ラーンの熱い気持ちには心を打たれる部分もあった。
そこに、テルヘルが冷めた目で話しかけてきた。
「噂は本当だ。あの塔にはヴォルダンの兵士がかつて逃げ込んだという記録がある。遺物と一緒に危険な罠も残されている可能性が高い」
ラーンは少しばかり顔色が変わった。テルヘルの言葉に重みがあったからだ。だが、彼はすぐに立ち直り、笑顔を見せた。
「大丈夫だ!俺たちがしっかり準備すればなんとかなるさ!」
イシェはテルヘルに視線を向け、小さく頷いた。ラーンの無茶な行動をいつも心配しているが、彼が危険な目に遭わないよう、しっかりと見守っていく決意があった。
ビレーを出発する三人の後ろ姿は、夕日に染まる山道をゆっくりと進んでいった。
廃墟となった塔の入り口にたどり着くと、ラーンは真っ先に駆け込んだ。イシェはテルヘルの指示に従い、慎重に後を追った。薄暗い通路には、埃が積もり、朽ち果てた石像が立ち並んでいた。
「ここだな」
テルヘルが壁にある小さな石版を指さした。そこに刻まれた記号は、古代の魔法文字だった。イシェは緊張しながら石版を触れた。すると、壁に隠された扉が開いた。
「よし、見つけたぞ!」
ラーンの声が響き渡った。彼は興奮気味に部屋の中を進もうとしたが、テルヘルが彼を抑えた。
「待て」
彼女は静かに周囲を見回し、何かを感じ取ったようだ。
「この部屋には罠が仕掛けられている」
イシェはテルヘルの言葉を聞き、冷や汗を流した。ラーンの無謀さに呆れながらも、彼を守るためならどんな危険も受け止める覚悟だった。
その時、床から鋭い棘が飛び出した。ラーンはわずかに避けられたものの、腕に深い傷を負ってしまった。
「くそっ!」
ラーンは激痛に顔をゆがめた。イシェはすぐに彼の傷口を包帯で押さえつけ、テルヘルは冷静に状況を見極めていた。
「この部屋には君主を守るための罠だ。侵入者を排除するための仕掛けだ」
テルヘルの言葉に、イシェは驚きを隠せなかった。彼女はヴォルダンと戦うために、遺跡の危険を承知の上でラーンと行動していたが、まさかこんな罠があるとは知らなかった。
「君主…?」
イシェは呟いた。ラーンの無謀な行動は、まるで君主を守る騎士のように見えた。だが、彼は単なる遺跡探索者で、そんな高尚な使命を与えられたわけではなかった。
「何かの誤解だ」
イシェはそう言い聞かせた。しかし、彼女の心には不安が渦巻いていた。
三人は、危険な遺跡を前に、それぞれの想いを胸に抱きながら、進んでいくこととなる。