ビレーの夕暮れ時はいつも茜色に染まり、街の端にある遺跡へと続く道も暖かな光に包まれる。ラーンがいつものように剣を肩にかけ、イシェが地図を広げていると、テルヘルが静かに足音を立てて近づいてきた。
「準備はいいか?」
テルヘルは鋭い視線で二つの顔を覗き込んだ。ラーンの無邪気な笑顔と、イシェの慎重に眉間にしわを寄せた表情が、彼女の心を少しだけ和らげた。
「今日はあの未踏の地下迷宮だ。噂ではそこには…」
テルヘルは言葉を濁すように続けた。
「君たちには危険すぎるかもしれない。」
ラーンの瞳が一瞬輝き、イシェは地図を指でなぞり始めた。
「危険と隣り合わせだからこそ、報酬も高くなるだろう」
イシェの冷静な判断に、テルヘルは苦笑した。彼らにはまだ、この世界の残酷さや裏切りを知らない部分がある。しかし、その純粋さは、テルヘルにとって大切なものだった。まるで、かつて彼女が信じていた「君子」のような…。
深く息を吸い、テルヘルは決意を固めた。
「では、行こう。」
夕暮れの光が三人の背中に伸びるにつれて、ビレーの街灯も一つ一つ輝き始めた。遺跡への道は険しく、危険が潜んでいることは分かっている。だが、三人は互いに支え合いながら、一歩ずつ進んでいく。
彼らの前に広がるのは、未知の世界であり、運命そのものだった。