「よし、今回はあの崩れかけた塔だな。噂では奥深くには未探索の部屋があるらしいぞ」
ラーンの言葉にイシェが眉間にしわを寄せた。「また噂話か？そんな安易な考えで遺跡探検ができると思うなよ。特にあの塔は危険だぞ。過去にも何人もの探検隊が入ったまま戻らなかったと記録されている」
「ああ、そうか。でも、危険だからこそ面白いのさ！それに、今回はテルヘルさんが報酬を上げてくれたんだろ？大穴が見つかるかもな！」
ラーンの豪快な笑いにイシェはため息をついた。「君には本当に頭が悪いところがあるよ…」
そんな二人が議論している横で、テルヘルは冷めた目で塔を見つめていた。ヴォルダンへの復讐を果たすためには、あらゆる手段が必要だ。遺跡探検もその一つに過ぎない。ラーンとイシェの能力は確かだが、彼らをコントロールするのは容易ではない。特にラーンは、その無邪気な性格ゆえに危険な賭けに出る可能性がある。しかし、彼らを利用すれば、ヴォルダンへの復讐に近づけるかもしれない。
「よし、準備はいいか？」
テルヘルの声が二人の議論を打ち切った。「塔へ入ろう」
塔の入り口は崩れ落ち、中からは埃っぽい空気が漂っていた。ラーンの持つランプの光が壁に反射し、不気味な影を投げかける。イシェは慎重に足取りを進めた。
「気をつけろ、ラーン。ここには罠が仕掛けられているかもしれない」
ラーンの無邪気な笑顔は消え、真剣な表情になった。「わかった。気を付けてるよ」
テルヘルは二人の後をついていった。彼女は常に周囲を警戒していた。彼女の目は、塔の奥深くに秘められた秘密を探し求めていた。
階段を登り続けると、広間に出た。壁には古びた絵画が飾られており、かつて栄華を極めた文明の痕跡を感じさせた。しかし、今は埃と影に覆われ、寂寥感を漂わせていた。
突然、床から風が吹き上げ、ラーンがよろめきかけた。イシェは素早く彼を抱え上げた。「危ない！何かあったぞ！」
その時、床の石畳が崩れ落ち、深い穴が現れた。ラーンの足が穴に落ちてしまい、彼は絶叫した。
「ラーン！」
イシェが駆け寄ろうとするのをテルヘルが制止した。「待て！あの穴には何かがいるかもしれない」
イシェは渋々引き下がった。
穴から不気味な光が漏れている。その光は、まるで生きているかのようだった。ラーンの叫び声は、次第に弱くなっていった。
テルヘルは冷静さを保ち、状況を判断した。「イシェ、あの光を調べてみろ」
イシェは躊躇したが、テルヘルの命令に従うしかなかった。彼は懐中電灯を取り出し、穴をのぞき込んだ。すると、その光が彼の目を射抜いた。
「ああ…」
イシェの声は震えていた。彼はゆっくりと立ち上がり、テルヘルに言った。「あの光…それは…」
テルヘルはイシェの言葉を遮った。「君側には、見たくないものが見えてしまったようだ」