ラーンの粗雑な剣技が埃を巻き上げ、遺跡の奥深くへと続く通路を照らす炎の光が揺らめいた。イシェは眉間に皺を寄せ、足元を注意深く確かめていた。「ここは本当に安全か?」
「大丈夫だ、イシェ。いつも通りだ」ラーンはそう言いながらも、どこか落ち着きのない様子だった。テルヘルの依頼で今回は特に危険な遺跡に挑んでいたのだ。
「安全」という言葉にイシェは苦笑した。ラーンの「いつも通り」にはいつも不安がつきまとっていた。だが、ラーンの言葉の裏にある何かを感じ取っていた。今回は違う。いつもの軽率さの中に、どこか緊張感が漂っている。
「何かあったのか?」イシェの問いかけに、ラーンは一瞬戸惑った後、小さくうなずいた。「あの遺跡の奥深くには、かつてヴォルダンと戦った英雄の遺物があると聞いたんだ」
イシェは息を呑んだ。ヴォルダン。その名は恐怖と共に語られる。ラーンの故郷を焼き払った張本人だ。そしてテルヘルが復讐を誓う相手でもある。
「なぜそんな話を?」
ラーンの視線が遠くを見つめた。「英雄の遺物には、ヴォルダンを打ち負かす力があると噂されているんだ」
イシェは言葉に詰まった。ラーンの瞳は、いつもの陽気さではなく、何か燃えるようなものを持っていた。それは、復讐心を抱きながらも、どこか諦めのようなものと混ざり合っていた。
「僕には、いつかヴォルダンを倒したいという気持ちが…」ラーンは言葉を濁すように続けた。「でも、今はまだ何もできない。だから…」
イシェはラーンの言葉の真意を理解した。彼はテルヘルに雇われたのは、単なる報酬のためだけではない。英雄の遺物を見つけ、ヴォルダンのために失ったものを取り戻したいという思いが、彼の中に渦巻いているのだ。
その思いを知ってしまったイシェは、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。ラーンの言葉の裏に隠された吐露は、彼の抱える苦しみと希望を同時に映し出していた。