「準備はいいか？」ラーンの低い声が響き渡る。イシェは小さく頷く。テルヘルが用意した地図を広げ、遺跡の構造を確認していた。ビレーから少し離れた場所にあるこの遺跡は、かつての名門貴族の家臣たちが住んでいたと言われる場所で、地下には彼らの墓所があると噂されていた。
「今回は大穴になる予感がする」ラーンは、いつも通りの豪語を口にする。イシェはため息をつきながらも、地図に目を落とす。「あの噂が本当なら、そこには名跡が残されている可能性もあるわね…」
テルヘルは冷めた視線で二人を見下ろした。「無駄な話だ。目的は遺物だ。名跡など手に入れられればの話だ」
遺跡の入口は崩落しており、狭くて暗い通路が広がっていた。ラーンは先頭を切り、イシェとテルヘルが続く形で慎重に進む。壁には苔が生えており、湿った臭いが漂う。
「ここ…何か変だな…」イシェの声が震えている。「何かを感じた」
その時、床の下から何かが這い上がる音がした。ラーンは剣を構える。「何だ！」
影の中から巨大な虫のような怪物が現れた。鋭い牙と鉤爪を持ち、目が赤く光っていた。イシェは慌てて後ずさるが、足が引っかかって転んでしまう。
「イシェ！」ラーンの叫び声。彼は怪物に飛びかかり、剣を振り下ろす。しかし、剣は怪物硬い甲羅に弾かれ、ラーンは吹き飛ばされる。
テルヘルは冷静に状況を判断し、小さな爆薬を取り出す。「これで少しは…」と呟き、怪物に向かって投げつけた。爆薬は爆発し、怪物はよろめいたが、まだ生きている。
イシェは立ち上がり、必死に逃げる。ラーンは怪物に立ち向かうが、その力は衰えていく。その時、テルヘルが何かを叫んだ。「名跡！あの名跡を使うしかない！」
彼女は手を広げると、空中に光が浮かび上がった。それはまるで、かつてこの貴族が所有していた名跡の紋章だった。その光は怪物に降り注ぎ、怪物は悲鳴を上げながら消滅した。
イシェとラーンは息を切らしながら立ち上がり、テルヘルを見た。彼女は疲れた表情で言った。「名跡の力は侮れない。今回は運が良かっただけだ」
ラーンの顔には驚きが広がっていた。「まさか…あの名跡が…」
イシェは静かに言った。「この遺跡には、まだまだ秘密があるのかも…」