「おいイシェ、あの石碑の奥に何かあるぞ!」ラーンの声が響き渡る。イシェは彼の興奮を抑えきれずに走り出す姿を見つめ、ため息をついた。いつも通り、ラーンは計画なく遺跡へと飛び込んでいく。
「待てよ、ラーン!あの記号を見たことがあるような…危険かもしれないぞ!」
しかしラーンの耳には届かない。彼はすでに石碑の奥へと消えていった。イシェは仕方なくテルヘルに視線を向けると、彼女は冷静に状況を分析していた。
「あの記号はヴォルダン軍が使用する紋章だ。ここには罠が仕掛けられている可能性が高い」
テルヘルはそう告げると、鋭い眼光で遺跡の周囲を見回し始めた。「ラーンが危険な目に遭う前に、何らかの対策を立てなければ…」
イシェはテルヘルの言葉に同意し、ラーンを呼ぶため石碑へと近づいた。しかし、その瞬間、石壁から鋭い矢が飛び出して来た。イシェは本能的に身をかわすも、矢は彼女の腕をかすめた。
「イシェ!」ラーンの叫び声が響き渡る中、イシェは激痛に襲われた。だが彼女は自分の安全よりもラーンの無事を優先した。
「ラーン、早く逃げろ!ここは罠だ!」
イシェの言葉を聞いたラーンは一瞬迷った。しかし、彼の目の前に広がる光景は彼を動員させた。石壁から次々と矢が飛び出してくる中、イシェは自分の体でラーンを守ろうとしているのだ。
「そんな…!」
ラーンの叫びは、イシェの決意を揺るがすことはなかった。彼女は傷を気にせず、ラーンに立ち向かうように言った。
「逃げろ!私の名誉のために…」
その言葉にラーンの瞳から涙が溢れ出た。彼はイシェの言葉を胸に刻み込み、石碑の奥へと駆け込んだ。テルヘルは冷静さを保ち、矢を避けながらイシェを安全な場所に導こうとした。
「お前もヴォルダンに全てを奪われたのか?」
イシェはテルヘルに問いかけた。テルヘルは一瞬だけ顔を曇らせ、静かに頷いた。
「私は復讐のために生きている。だが、お前のように名誉のために命をかける者もいる。それは私には理解できない…」
テルヘルの言葉には、どこか哀愁が漂っていた。イシェは彼女を深く見つめ、こう言った。
「名誉とは、自分自身を守るためだけのものではない。大切な人を守るためにも存在するのだ」