ラーンが興奮気味に石の扉を開けた瞬間、冷たい風が吹き込んできた。イシェは眉間に皺を寄せながら懐中電灯の光を内部に当てた。狭い通路の先には、崩れかけた壁画がわずかに残る広間が広がっていた。「ここなら何かあるはずだ！」ラーンの声がエコーした。イシェは懐疑的な表情で言った。「また宝探しの話か？ ラーン、遺跡探索の目的を忘れているんじゃないのか？」
ラーンは苦笑しながら肩をすくめた。「いや、今回は違うって！ この遺跡、俺が昔聞いた話でな…。」彼は興奮気味に壁画を指差した。「この絵、見てみろよ！ 剣を構えた男が何かを睨んでるんだ。そして、その男の後ろには…」
イシェは彼の話を遮った。「また大穴の話か？ ラーン、そんな伝説はただの作り話だ。遺跡探索で食っていくためには現実的な計画が必要だ。」
その時、テルヘルが静かに口を開いた。「面白い話だな。伝説を信じるのか？」彼女の視線は壁画ではなく、ラーンの顔に注がれていた。そして続けた。「もし、その伝説が真実なら…」彼女は少しだけ微笑んだ。「我々は偉大な富を手にすることができるかもしれない。」
イシェはテルヘルの言葉に驚きを隠せなかった。彼女はいつも冷酷で計算高い女性だと思っていたが、今回は何か違うものを感じた。まるで…「名人」のように、ラーンの心を操っているかのようだった。イシェは不安な気持ちを抱えながらも、好奇心にも駆られてしまう自分がいた。
ラーンはテルヘルの言葉に火が付いたように、さらに熱く遺跡の探索について語り始めた。イシェはため息をつきながら、彼らに続くことを決意した。
「よし、わかった。今回は君の言う通りにするよ。伝説を信じてみよう。」彼女は小さく呟いた。しかし、心の奥底では、この遺跡が本当に「名人」の仕業なのかどうか、疑い続けていた。