ラーンの大雑把な指示に従い、イシェは慎重に足場を確認しながら遺跡の奥深くへと進んだ。石畳が崩れ落ち、埃っぽい空気が立ち込める通路は、まるで巨大な獣の口の中に迷い込んだかのようだった。
「ほら、ここだ!」ラーンが興奮気味に叫びながら、壁の一角を指差した。そこには、薄っすらと光る模様が刻まれていた。
「本当にここに何かあるのかね?」イシェは懐疑的に呟きながら、持ち歩いているランプの火を近づけた。「ただの模様じゃないかと」
「いや、違う!」ラーンは力強く言った。「この模様は、あの伝説の『星降る夜』の地図の一部に間違いない!俺の直感が言ってるんだ!」
イシェはため息をついた。ラーンの直感に振り回されるのはもう慣れているが、今回もまた空振りに終わるのではないかと不安を感じた。
その時、背後から冷酷な声が響き渡った。「本当にそうでしょうか?」
振り返ると、テルヘルが立っていた。鋭い眼光で二人を見つめ、薄暗い通路に影を落とす。
「地図だとすれば、それはヴォルダンに奪われたはずのものだ」テルヘルの言葉は氷のように冷たかった。「もしあなたがそれを手に入れようとするなら、私にもその理由を教えて欲しい。そして、その代償も覚悟しておきなさい」
ラーンは一瞬戸惑ったが、すぐにいつもの自信を取り戻した。「俺たちはただ大穴を掘り当てたいだけだ!お前には関係ない!」
テルヘルは静かに笑みを浮かべた。「そうか?では、一緒にこの遺跡の秘密を探してみましょう。あなたたちが望む『大穴』とは一体何なのか、私も知りたいと思っているから」
イシェはラーンとテルヘルの視線が交差する様子をじっと見つめた。二人は全く異なる目的を持っているが、なぜか互いに惹かれ合っているようにも見えた。その間には、まるで不可視の糸で結ばれた、複雑な関係があった。イシェ自身も、この遺跡探検を通して、自分自身の運命と向き合わなければいけないと感じていた。