ラーンの大雑把な指示に従い、イシェは懐中電灯の光を岩壁に当てながら慎重に進む。埃っぽい空気が鼻腔をくすぐり、湿った土の匂いがする。深い洞窟の中は冷たく、彼らの息が白く見える。
「ここだな」
ラーンは興奮気味に、苔むした石碑を指さす。イシェは眉をひそめて碑文を眺めた。複雑な模様が刻まれていて、どこかで見たような気もするが、記憶は曖昧だ。
「何かの警告みたいだな」
イシェの言葉にラーンは軽く笑って、「そんなこと気にすんな！宝探しの冒険だぜ！」と豪快に言った。だが、イシェには彼の背中に潜む不安を感じ取れた。
その時、後ろから低い声が響いた。「何か見つけた？」
テルヘルが近づいてきた。黒曜石のように輝く瞳は暗闇でも鋭く光り、その視線はラーンの石碑に向けられている。
「おや、これは珍しい紋章ね」
テルヘルは石碑の模様をなぞるように指を動かした。「私の故郷にも似た記号があったわ。忘れ去られた同族の痕跡なのだろう」。彼女の言葉に、イシェは背筋が凍りつくような感覚を覚えた。ラーンの無邪気な冒険心とは対照的に、テルヘルの目は何かを察知しているようだった。
「同族」という言葉が、この遺跡、そして彼らの運命をどう変えていくのか。イシェの胸には不安と好奇心が入り混じり、複雑な感情が広がっていった。