「よし、今日はあの崩れかけの塔だな。噂には、最上階に秘宝が眠っていると…」ラーンの声は興奮気味だった。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を広げた。「またしても無計画な… あの塔は危険だって聞いたわよ。落石や毒ガスだとか…」
「そんなのは大げさだろう!俺たちが行くなら大丈夫だ!」ラーンは自信満々に胸を張った。イシェはため息をつきながらも、彼の背中に手を置いた。「わかった。でも、今回は本当に気を付けて。何かあったらすぐに逃げろ」
テルヘルは二人を見下ろしながら、薄暗い口調で言った。「宝探しに夢中になる前に、まずは任務を忘れないでください。ヴォルダンとの戦いはまだ始まったばかりです」
廃墟となった塔へと続く階段は、崩れかかっており、一歩一歩が不安定だった。ラーンの軽快な足取りとは対照的に、イシェは慎重に足を運んだ。彼女は塔の歴史を調べた資料を脳裏に浮かべながら、周囲の状況を警戒していた。
塔の中腹で、彼らは巨大な石板を発見した。表面には複雑な模様が刻まれており、古代文字らしきものが記されていた。ラーンは興味深そうに石板を指差したが、イシェは不安げな表情を浮かべていた。「これは…何か呪文のようなものかもしれないわ…」
その時、石板から不気味な光が放たれ、部屋に充満した。ラーンの体は硬直し、苦痛の色を浮かべた。イシェは驚いて彼の手を取ろうとしたが、ラーンは彼女を振り払った。「イシェ… 逃げろ… この場所… 危険だ…」彼の声は震え、目は空虚になっていた。
イシェは恐怖を感じながらも、ラーンの様子をじっと見つめていた。彼はまるで別の誰かに取り憑かれたようだった。そして、その瞳に、彼女は深い悲しみと、どこか懐かしい哀しみを見た気がした。テルヘルが剣を抜いて石板に向かって立ち向かおうとする中、イシェは迷いなくラーンの腕を掴んだ。「ラーン! どうか… 落ち着いて…」
彼女の言葉に、ラーンの目は少しだけ輝きを取り戻した。彼はイシェの手を握り返し、苦しそうに言った。「イシェ… ごめん… 何か… 頭が混乱する…」
その時、石板から放たれる光は収まり、部屋は静寂に包まれた。ラーンはよろめきながらも立ち上がり、イシェの助けを借りて座り込んだ。彼は深く息を吸い込み、顔をしかめた。「何だったんだ… あの光は…」
イシェはラーンの様子を心配そうに見ていると、テルヘルが冷たく言った。「あの石板には強力な呪文が刻まれていたようです。ラーンは一時的にその影響を受けたようです」
ラーンは苦笑いしながら言った。「呪文か… まさかこんなところに…」彼は立ち上がり、イシェに手を差し出した。「よし、もう大丈夫だ。さあ、宝探しを続けよう!」
イシェはラーンの手を握りしめながら、彼の瞳の奥底にある深い悲しみを感じ取った。そして、彼女は彼を守る決意を強くした。
「はい、ラーン。一緒に探しましょう…」