ビレーの酒場で、ラーンが豪快に笑っていた。「あの遺跡、また大穴だったな！イシェ、お前も見てたろ？あの光！」
イシェはため息をついた。「ラーン、あれはただの蛍光石だよ。大穴には程遠い。」
「でも、綺麗だっただろ？」ラーンの目は輝いていた。「いつか本当に大穴を見つけるぞ、イシェ。その時はお前も驚くよ！」
イシェは苦笑した。ラーンの夢を否定するつもりはないが、現実的な自分にとっては、そんな夢は遠い昔の話だ。ビレーの周りにある遺跡から得られるのは、わずかな金銭と危険な冒険だけだった。
その時、店の入り口に影が伸びた。黒曜石のような瞳を持つテルヘルが、静かに近づいてきた。「二人は準備はいいか？」
ラーンの目は輝きを増した。「ああ、もちろんだ！テルヘルさん、今日はどこへ行くんだ？」
テルヘルは冷たい声で言った。「ヴォルダンとの国境付近にある遺跡だ。古い記録によると、そこにはヴォルダンが所有していた強力な遺物があるらしい。」
イシェの心臓が早鐘を打った。ヴォルダンとの国境といえば、エンノル連合にとって常に脅威の存在だった。テルヘルはヴォルダンに復讐するため、危険な遺跡を探し回るのだ。
「でも…」イシェはためらった。「ヴォルダンとの国境って…」
ラーンがイシェを遮った。「大丈夫だ、イシェ。俺たちがテルヘルさんをしっかり守るからな！」
イシェは諦めた。ラーンの熱意に押されてしまうと、いつもそうだった。
3人はビレーを後にして、ヴォルダンとの国境へと向かった。道中、テルヘルは遺跡の場所や歴史について説明した。
「この遺跡はかつて、エンノル連合とヴォルダンの間で激しい争奪戦が行われた場所だ。多くの犠牲者を出した末、最終的にヴォルダンが勝利し、遺跡を占領したのだ。」
イシェは不安を感じた。過去の争いから生まれた憎悪が、今もなおこの地に根強く残っているようだ。
日が暮れ始めた頃、彼らは遺跡にたどり着いた。崩れかけた石造りの建物が、荒涼とした景色の中に佇んでいた。
テルヘルは言った。「ここだ。準備はいいか？」
ラーンとイシェは頷き、テルヘルの後を続けた。遺跡内部へと足を踏み入れた時、冷たい風が吹き込んできた。
「ここはかつて、ヴォルダンの支配下にあった。」テルヘルの声が響いた。「この遺跡に眠る遺物は、ヴォルダンを滅ぼすために必要な鍵になるかもしれない。」