ラーンが巨大な石の扉をこじ開ける音を、イシェはいつもよりきつく握りしめた拳で塞ごうとした。埃っぽく重苦しい空気が流れ込み、彼らが普段潜る遺跡とは違う、何か不気味なものを感じさせた。
「おい、大丈夫か?」ラーンの背後からテルヘルが声をかけた。「あの扉、開けるのに一苦労したぞ」
イシェは頷いた。「そうだね…何か変だ」
石畳の通路を進むにつれ、その感覚は強まった。壁には複雑な紋様があしらわれており、まるで生きているかのように脈打つような光が流れている。ラーンは興奮気味に剣を構えながら進んでいくが、イシェは背筋がぞっとするような予感を拭い去ることができなかった。
「ここは一体…?」
テルヘルが呟いたように、通路の奥からかすかに音が聞こえてきた。それはまるで、何千もの声が重なって奏でられているような、複雑で調和のとれた音楽だった。ラーンは目を輝かせ、イシェは不安を募らせながら、音の方へ足を進めた。
すると、目の前に広がったのは、巨大な円形広場だった。中央には、巨大な石柱がそびえ立ち、その周りを何百人もの人影が取り囲んでいるように見えた。しかしよく見ると、それは石像ではなく、まるで石の中に閉じ込められた人々の姿だった。彼らは苦しげな表情を浮かべており、それぞれが何かを訴えかけるように手を伸ばしているようだった。
そして、その中心には、一人の女性が立っていた。彼女は美しい白銀の髪と、エメラルドグリーンの瞳を持ち、まるで女神のような存在感があった。彼女の手には、光り輝く球体が浮かんでおり、それはまるで、この場所全体のエネルギー源のように見えた。
「あの女は…」テルヘルが呟いた。「ヴォルダンに囚われた、古代の女王…アテナだ」
イシェは息を呑んだ。古代の伝説に記された、強力な力を持つ女王。彼女は一体何をしようとしているのか?そして、この場所で何が起ころうとしているのか?ラーンは興奮を抑えきれず、女王に向かって駆け寄ろうとしたが、イシェは彼を引き止めた。
「待て!何かおかしい…」
その時、女王がゆっくりと口を開き始めた。
「我々は一つになるのだ…永遠に」
その言葉と共に、女王の体から光が放たれ、石柱に閉じ込められた人々の姿が一つずつ溶け始めていった。そして、その光は広がり続け、ラーン、イシェ、テルヘルへと向けられる。 3人は恐怖と驚きで言葉を失い、ただ光を浴びることを許すしかなかった。