「よし、今回はあの洞窟だな。噂では奥に未開の通路があるらしい」
ラーンが目を輝かせ、粗雑な地図を広げる。イシェは眉間に皺を寄せた。
「またそんな危険な場所? 以前から言ってるだろう、安全な遺跡を選んで稼ぎを安定させないと」
「安定? イシェ、お前は堅物すぎるよ! 大穴を見つけたら一気に金持ちになれるんだぞ!」
ラーンの言葉にイシェはため息をついた。彼らには共通の夢がある。それはビレーの外、豊かな生活を送ることだ。だがその方法論が根本的に異なるのだ。
「よし、今回はテルヘルさんの言う通りにやろう」
ラーンは諦めた様子で地図を畳んだ。テルヘルは冷静に彼らの意見を聞き、必要な情報を提供する。彼女はヴォルダンへの復讐に燃え、遺跡探索の報酬はあくまで手段の一つに過ぎない。だがその目的についてはラーンとイシェには明かしていなかった。
ビレーを出発し、数日かけて山奥にある洞窟へとたどり着いた。入り口は崩落しており、危険な雰囲気を漂わせていた。
「ここが噂の洞窟か…」
イシェは不安げに周りを見回した。ラーンのように勇敢なタイプではない。だが、テルヘルと行動を共にすることで、新たな可能性が開けるかもしれないとも思っていた。
洞窟内は暗く湿っており、足元には石が転がっている。彼らは慎重に進んでいく。やがて奥へと進むにつれ、壁に奇妙な模様が刻まれていることに気づいた。
「これは…?」
イシェが指さす方向を見つめた。複雑な幾何学模様はまるで古代の文字のようだった。
「これは何か重要なものかもしれない」
テルヘルは真剣な表情で言った。「この遺跡には何か隠された秘密があるはずだ」
彼らは慎重に進むにつれ、壁画に描かれたシンボルを解読していく。そしてついに、奥深くにある部屋を発見する。そこには古代文明の遺物、そして奇妙な装置が置かれていた。
「これは…!」
ラーンは興奮を抑えきれなかった。だが、その瞬間、床が崩れ始め、彼らは深い淵に落ちていく。
「うわぁっ!」
イシェは叫び声を上げた。意識を朦朧とする中、テルヘルが彼らを掴み止めた。だが、すでに遅かった。彼らは洞窟の底へと落下し、意識を失った。
目が覚めたとき、彼らは牢屋に閉じ込められていた。鉄格子越しに、厳めしい顔をした衛兵たちが立っていた。
「ここは…」
イシェは混乱していた。
「エンノル連合の司法管轄区域だ」
テルヘルの声が冷たかった。「どうやら我々は陥れられたようだ」
ラーンは茫然とした表情で牢屋の壁を眺めていた。イシェは不安と怒りで胸が一杯だった。彼らは一体誰が罠にかけたのか、そしてなぜ?
その答えを知るためには、エンノル連合の司法制度に立ち向かう必要があった。