「よし、今回はあの崩れかけた塔だな。噂じゃ奥深くには未開の部屋があるらしいぞ」ラーンの声はいつも通りの興奮を帯びていた。イシェは眉間に皺を寄せながら彼の背後から地図を広げた。
「史書には塔の構造について詳しく記されている。危険な罠が仕掛けられている可能性もある。慎重に進まないと…」
「大丈夫だ、イシェ。俺たちが一緒にいればなんとかなるさ！」ラーンの言葉にイシェはため息をついた。いつも通り彼の計画性のない行動に頭を痛めていた。しかし、彼には言えないものがあった。ラーンの無邪気な笑顔と仲間への情熱こそが、彼女をこの危険な遺跡探索から引き離せない理由だった。
テルヘルは静かに二人を見つめていた。彼女の鋭い目は常に周囲を警戒している。ヴォルダンとの復讐を果たすため、彼女はあらゆる手段を使う覚悟を決めていた。ラーンとイシェを利用するのもその一つだ。彼らは純粋で、彼女の目的には利用価値がある。
遺跡の入口に足を踏み入れた瞬間、不気味な静けさに包まれた。埃が舞い上がり、朽ちた石造りの壁からはかすかな冷気が伝わってきた。ラーンの陽気な声だけが、この死の沈黙を破り始めた。
「さあ、大穴だ！俺たちは今日、歴史を変えるぞ！」
イシェは彼の背後から、静かに呟いた。「史書には記されていない場所…一体何が待っているのか…」
テルヘルは深呼吸をして、自分の目的を思い出した。ヴォルダンとの復讐のためなら、どんな危険も乗り越えられる。そして、この遺跡の奥深くには、彼女にとって必要な何かがあるはずだと信じていた。