「おい、イシェ、あの石碑、どうだ?」
ラーンが興奮気味に指さす方向には、崩れかけた石畳の間に、苔むした石碑が立っていた。イシェはため息をつきながら、碑文に刻まれた文字を丹念に確認した。
「これは古代語だ。少し古風な表現だが、意味は通じるはずだ。 “ここはかつて王家の墓地であった” と書かれている」
「王家の墓地か!もしかしたら宝が眠ってるかもな!」
ラーンの目は輝き、イシェは苦笑した。ラーンはいつもこうだ。遺跡の調査よりも、財宝や遺物への執着に目がくらんでいる。
「でも、この碑文には“侵入を禁じる”という呪文のようなものも刻まれているぞ」
「そんなの気にすんな!俺たちは遺跡探検家だ、歴史を解き明かすためならどんな危険も恐れぬ!」
ラーンの豪語に、イシェはため息をついた。
「ラーン、歴史を解き明かすわけでもないし、危険を冒しても宝が見つかる保証もない」
その時、テルヘルが口を開いた。「この碑文には興味深い記述がある」と彼女は静かに言った。「王家の墓地だとするなら、その下に広がる地下空間は単なる墓ではない可能性がある。古代の文献には、王家の墓地に秘められた知識や技術を保管する施設があったという記録が残っている。
「知識や技術か…」イシェは目を丸くした。ラーンが財宝に固執する一方で、テルヘルは歴史的な価値を求めている。彼らの目的は異なるが、遺跡探索という共通の目標に向かって歩んでいる。
「よし、わかった!地下空間を探検だ!」ラーンの興奮を抑えきれない様子を見て、イシェは小さく頷いた。
「でも、注意が必要だ。古代の文献には、王家の墓を守る精霊の存在も記されている」
テルヘルが言った言葉に、ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らは歴史的な価値を追い求める一方で、自分たちがその歴史の渦中に身を置くことを覚悟しなければならない。