「おい、イシェ！まだ迷ってるのか？」ラーンが不機嫌そうに言った。彼の背中には巨大な遺跡の入り口があり、そこから暗い影が伸びていた。イシェは小さな巻物を開き直して、地図と照らし合わせながら眉間にしわを寄せた。「あの記号…見覚えがあるような…でも…」
「もういいって！そんなことより早く入らないと日が暮れるぞ！」ラーンの怒声が響き渡る。イシェはため息をつき、巻物を閉じた。「わかった、わかった」と呟きながら、ラーンの後をついて遺跡へと歩み始めた。テルヘルは後ろから二人を見つめていた。彼女の表情は暗く、まるで影のように重かった。
「あの遺跡には危険が伴うことを忘れないでくれ」テルヘルが低い声で言った。「特にイシェさん、あなたには特別な注意が必要だ」イシェは振り返り、「なぜ…？」と尋ねようとしたが、テルヘルは何も言わずに先へ進んだ。ラーンの背中は大きく揺れながら遺跡の奥へと消えていく。イシェは小さくため息をつき、テルヘルの言葉の意味を考え始めた。
暗い洞窟の中を進むにつれて、空気が重くなっていった。冷たい風が吹き抜けて、かすかな光がちらつくだけで、周りが見えないほど暗かった。ラーンの足音が重く響き渡り、イシェは彼に近づきすぎないように注意しながら歩いていた。テルヘルは二人より少し後ろを歩いているが、彼女の存在感はどこか不気味だった。
「ここ…何かいる…」イシェは震える声で言った。ラーンは振り返り、「何言ってんだ？」と笑った。「ただの蝙蝠だ」
その時、洞窟の奥から不気味な音が聞こえた。それはまるで、獣の唸り声のようなもので、イシェの心臓を締め付けるように響いた。ラーンの顔色が変わった。「これは…」
突然、影が動き始めた。巨大な影が洞窟の奥から現れ、ラーンに向かって襲いかかった。ラーンは剣を抜いて立ち向かうが、その影は強靭で、彼の攻撃をものともしなかった。イシェは恐怖で足がすくんでしまった。
「イシェ！逃げろ！」テルヘルの声が響き渡った。イシェは振り返り、テルヘルが影に向かって剣を突き立てているのを見た。その瞬間、テルヘルは影に受け止められ、壁に叩きつけられた。
「テルヘル！」イシェは叫んだ。ラーンも影と戦いながら、テルヘルのもとへ駆け寄った。しかし、影は二人を襲い続ける。イシェは絶望を感じた。
その時、イシェの脳裏に何かが閃いた。巻物の中に記されていた記号…あの記号の意味を思い出したのだ。彼女は慌てて巻物を開き、記号を探し始めた。そして、ついにその記号を見つけた。
「ラーン！あの記号だ！」イシェは叫びながら、巻物の中の説明を読み上げた。「この記号は、影の弱点…光だ！」
ラーンはすぐに理解した。彼は懐から小さな火種を取り出し、それを地面に投げた。火種が燃え広がり、洞窟を薄暗い光で満たすと、影は苦しげにうなり声をあげた。ラーンの剣が影に突き刺さり、影は消滅した。
イシェは息を切らしながら立ち上がった。テルヘルは壁からゆっくりと起き上がり、血を流しながらも、イシェを見つめた。「お前…あの記号を知っていたのか？」
イシェは頷き、「偶然見つけた…」と答えた。しかし、彼女の心には、テルヘルの言葉が深く刻まれていた。「イシェさん、あなたには特別な注意が必要だ」なぜ彼女はそう言ったのか？イシェは自分自身の運命を深く考え始めた。