「準備はいいか？」テルヘルが鋭い目で二人を見据えた。ラーンはいつものように大ざっぱに頷き、イシェは小さくうなずいた。遺跡の入り口には、薄暗い空気を孕んだ洞窟が広がっていた。
「今回は特に慎重になれ。ヴォルダンとの取引で手に入れた情報によると、この遺跡には強力なトラップが仕掛けられているらしい」テルヘルは地図を広げ、複雑に絡み合った通路を示した。「特にこの部分には注意が必要だ。一歩間違えば命を落とすぞ」
ラーンの表情は少し曇った。「また面倒くさい遺跡だな…」と呟きながら、剣を構えた。イシェは静かに深呼吸をし、細身の体を引き締め始めた。テルヘルは二人を見渡すと、満足げに頷いた。
「さあ、行こう。大穴への鍵は、この遺跡の中に眠っている」
洞窟の中に入ると、不気味な静寂が訪れた。わずかな光が差し込むだけで、周囲を暗闇が包んでいた。足元には、滑りやすい石畳が広がり、一歩一歩を慎重に進まなければならなかった。ラーンは先頭に立ち、イシェが後をついていく。テルヘルは地図を片手に、二人の動きを常に監視していた。
しばらく進むと、通路の壁に奇妙な模様が刻まれていた。それはまるで、古代の文字のような複雑な図形だった。「これは…？」イシェは眉間に皺を寄せながら、模様をじっと見つめた。ラーンは「何だかわかったのか？」と尋ねたが、イシェは首を横に振った。
「わからない。見たことのない記号だ」
その時、背後から何かの音がした。振り返ると、影が壁からゆっくりと伸びてきた。「なっ！」ラーンの剣が光り、影に向かって斬りかかった。しかし、影は素早くかわし、ラーンを後ろに押し出した。
「気をつけろ、ラーン！」イシェが叫んだ。影はさらに増殖し、二人を包み込もうとした。ラーンの剣は空を切ったまま、イシェは必死に後ろへ下がった。その時、テルヘルが前に飛び出してきた。
「待て！」彼女は声を張り上げた。「あれはただの影じゃない。遺跡の守護者だ。攻撃すればさらに激しくなるぞ」
ラーンとイシェは驚き、武器を下ろした。影はゆっくりと動きを止め、静かに壁に戻っていった。テルヘルは深呼吸し、地図を広げた。
「この遺跡には、かつての王の霊が眠っているらしい。そして、その霊を守るために、この影が配置されているようだ」彼女は冷静に説明した。「つまり、我々は影を攻撃する必要はない。ただ、霊に敬意を払い、遺跡を undisturbed に通過する必要があるのだ」
ラーンの顔色が変わった。「敬意…って？そんな…」と彼は呟いたが、イシェはテルヘルの言葉を理解したようだ。彼女は小さくうなずき、「了解しました」と言葉少なかに答えた。
テルヘルは満足げに頷き、再び地図を広げた。
「よし、では先に進むぞ。大穴への鍵は、この遺跡の奥深くに眠っている」
影に怯えることなく、彼らは遺跡の奥へと進んでいった。彼らの前に、未知なる世界が待ち受けていた。