ビレーの賑やかな市場を抜け、狭い路地裏を進んでいくと、ラーンとイシェはテルヘルに合流した。日差しが弱く、影が長く伸びる午後だった。
「今日はあの遺跡だな。地図によると、奥深くにある部屋には未開封の宝箱があるらしい」
テルヘルは地図を広げ、指で場所を示す。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を見つめた。
「あの遺跡は危険な場所だって聞いたことがある。以前、調査隊が行ったらしいけど、全員戻ってこなかったんだ」
ラーンの顔に少しだけ色を失わせるも、「大丈夫だ、イシェ。俺たちにはテルヘルがいるじゃないか!それに、宝箱だぞ!」と自信たっぷりに言った。しかし、イシェの不安は拭い去られなかった。
遺跡へ続く道は険しく、崩れそうな場所もあった。進むにつれて、冷たい風が吹きつけ、不気味な影が揺れるように見えた。
「何かいる…」イシェは小さく呟いた。ラーンは剣を構え、周囲を警戒する。テルヘルは静かに状況を把握し、慎重に足取りを進めた。
遺跡の奥深くにたどり着くと、巨大な石門があった。その上には複雑な模様が刻まれており、どこかで見たことがあるような気がした。イシェは記憶を辿りながら、かつて祖父が語っていた話を思い出した。
「この模様…もしかして、古代文明の…」
その時、石門の上部から小さな石片が崩れ落ちた。その瞬間、イシェは不吉な予感に襲われた。
「気をつけろ!」
ラーンの叫びと共に、石門が轟音を立てて開き始めた。そこから黒い影が溢れ出て、三人を包み込んだ。
「何だこれは…」
ラーンは剣を振り下ろしたが、影には全く効果がない。イシェは恐怖で硬直し、テルヘルは冷静に状況を見極めていた。
影が消えると、そこは既に別の場所に変わっていた。見慣れない風景が広がり、空には異様な赤い月が浮かんでいた。
「ここは…どこだ?」
ラーンが茫然と周囲を見渡す中、イシェは足元に目をやった。そこには、小さな石片が転がっていた。それは、遺跡の石門から崩れ落ちたものと同じだった。
イシェは、自分の見落とした何かを、取りこぼした何かを強く感じた。そして、この異様な世界に閉じ込められた理由、そしてそこから逃れる方法を知るために、彼ら自身で何かを探さなければならないという決意を固めた。