「準備はいいか？」ラーンの粗い声とイシェの小さく頷く姿が、薄暗い洞窟の入り口に溶け込むように静かに揺れた。テルヘルは背後から、氷のように冷えた視線で二人を見据えていた。「遺跡に入る前に確認する。今回はヴォルダンとの取引に関わるものだ。失敗は許されない。」
ラーンはいつものように無邪気に笑った。「わかってるよ、テルヘルさん。大穴が見つかったら、ヴォルダンもびっくりするだろうな！」イシェは眉をひそめた。「そんな軽い気持ちでいるべきじゃないでしょう。今回は違う。テルヘルさんの目的を知っているはずです。」
テルヘルは深呼吸し、その息が洞窟の空気をわずかに歪ませた。「そうだな。今回の目標は単なる遺物ではない。それはヴォルダンに奪われたものの一部だ。それを取り戻すためには、どんなリスクも背負う覚悟だ。」
彼らは暗い洞窟の中へと進んでいった。石畳の上を歩くと、足音だけが不気味な静寂を破る。空気が重く、まるで壁自体が息を呑んで見守っているようだった。ラーンの肩に手を置くイシェの冷たさが、彼の腕を通って伝わる。
「何か変だ。」ラーンは呟いた。「いつもと違う…まるで圧迫されているみたいだ。」イシェも頷いた。「確かに。何かが…収縮している気がする。」テルヘルは沈黙を守り、鋭い視線で周囲を警戒した。彼女には、この洞窟の奥深くに潜む何かを感じ取ることができた。それは単なる遺跡ではない。何か、より大きな存在に飲み込まれようとしているかのようだ。
彼らは進んでいくにつれて、その感覚は強まっていった。まるで石壁が少しずつ近づいてくるように、彼らの周囲の空間が収縮していると感じられた。ラーンは剣を握りしめ、イシェは小さく息を吸い込んだ。テルヘルは、静かに呪文を唱え始めた。
「この洞窟には、ヴォルダンが隠した何かがある。そして、それは私たちを待っている。」