ラーンの粗雑な剣振りが埃を巻き上げ、イシェの鼻腔を刺激した。「もう少し気をつけてもらってもいいんじゃないか？」と彼女は眉をひそめた。ラーンは「すまんすまん」とだけ言い、宝箱を開けようとする。しかし、箱には何が入っているのか確認する前に、テルヘルが手を伸ばした。「待て」彼女の冷たい視線がラーンを刺す。「この遺跡の地図を確認したか？ここは罠が多い。安易に開けるな」。
イシェはテルヘルの言葉に同意した。「あの地図は確かに…」と彼女は言い始めたが、ラーンの不機嫌な表情を見て言葉を飲み込んだ。テルヘルは地図を広げ、「ここに記されているように、この宝箱には鍵が必要だ」と説明する。
「鍵？」ラーンは眉間に皺を寄せた。「そんなものどこにあるんだよ！」
「探せばいいんだよ。ほら、あの石像の足元を見てみろ」テルヘルは指さす。「地図によると、そこには小さな鍵穴が隠されているはずだ」。イシェはテルヘルの指示に従い石像に近づいた。ラーンの不機嫌な視線を感じながら、彼女は石像の足元に目を凝らした。
「あっ、本当だ！鍵穴がある！」
イシェの発見にラーンも少しだけ興味を示す。「よし、じゃあ開けてみろよ」と彼は言ったが、テルヘルは冷静に言った。「鍵を開けるのはいいが、この遺跡には罠が多い。宝箱を開けた瞬間、何かが起こるかもしれない。覚悟しろ」。
イシェは小さく頷き、鍵穴に小さな鍵を差し込んだ。重い音を立てて宝箱が開くと、そこには輝く宝石が詰められていた。「やったー！」ラーンは大喜びで宝石を手に取った。しかし、その瞬間、床から鋭い棘が飛び出した。ラーンは咄嗟に身をかわしたが、イシェはバランスを崩して転倒し、棘に手を刺されてしまった。
「イシェ！」ラーンの叫び声が響き渡った。「くそっ！」テルヘルも素早く駆け寄ってイシェを支えた。「大丈夫か？」と彼女は冷めた声で尋ねた。イシェは顔をしかめながら、「大丈夫…だけど、痛いわ…」と答えた。
ラーンは怒りに震えていた。「この罠の仕組者め！許さねぇ！」と彼は剣を抜いて周囲を見回したが、そこには誰もいなかった。テルヘルは冷静に状況を分析する。「今はイシェを優先しよう」と彼女は言った。「この遺跡から脱出することが先決だ」。
ラーンは渋々頷き、イシェを支えて立ち上がらせようと試みた。しかし、イシェは苦痛で顔を歪めていた。彼女の腕には深く棘が刺さっており、血が流れ出ているのが見えた。
「あの…テルヘルさん…」イシェはかすれた声で言った。「私のせいで…迷惑をかけて…」
テルヘルはイシェの目を見つめ、「そんなことはない」と彼女は言った。「私たちは仲間だ。助け合うものだ」。しかし、彼女の瞳には冷酷な光が宿っていた。ラーンの粗雑さがイシェを傷つけたことに対する、深い反目が、彼女の心を蝕んでいた。