ラーンが石畳の上を大股で歩くと、イシェが小さくため息をついた。
「また遺跡か。あの洞窟、本当に安全なのか?」
イシェの言葉は風に乗ってビレーの街並みを撫でた。夕暮れのオレンジ色に染まる街並みの美しさは、ラーンの無邪気な笑顔とは対照的だった。
「大丈夫だって!テルヘルが言うんだから間違いないだろう?」
ラーンはそう言うと、胸を張った。しかしその瞳には、イシェが見抜ける不安が宿っていた。
テルヘルは今日も冷静に地図を広げ、遺跡の構造を分析していた。彼女の目は鋭く、まるで洞窟の奥底にある何かを見透かしているようだった。
「この遺跡には、ヴォルダンが探しているものがある。」
テルヘルの言葉に、ラーンとイシェは息をのんだ。ヴォルダン。その名前を口にするだけで空気が重くなる。
「あの国との戦いから逃れるために、私たちはここに来たはずなのに…」
イシェは小さく呟いた。ラーンの無邪気な笑顔とは裏腹に、彼女の心には深い影が落とされていた。
「お前たちはまだ若すぎる。」
テルヘルはそう言うと、ラーンの目を見つめた。「この世界は、希望だけでは変えられない。真実を知るためには、危険と隣り合わせになる必要がある。」
イシェはテルヘルの言葉に反論しようとしたが、言葉は喉元で詰まった。彼女は自分の無力さに絶望を感じた。
日が暮れるにつれて、ビレーの街は影に包まれた。ラーンはイシェの手を握りしめ、立ち上がった。
「大丈夫だ。僕たちなら乗り越えられる。」
彼の瞳には、まだ希望が宿っていた。しかし、イシェの心は不安でいっぱいだった。
洞窟の入り口に近づくと、冷たい風が吹き付けた。それは、未来への不確かな予兆のようだった。