ラーンの大笑い声だけが、埃っぽい遺跡の奥深くでこだました。イシェは眉間に皺を寄せ、周囲を警戒しながら彼の様子を伺った。
「本当にここが最後の宝箱か? ラーン、また騙されたんじゃないだろうな?」
ラーンは宝箱に手を伸ばし、得意げに言った。「大丈夫だ、イシェ! この遺跡の地図はテルヘルが用意してくれたんだぞ! 彼女の言うことは間違いない!」
イシェはテルヘルの情報には常に疑いの目を向けていた。その冷酷な視線と、目的達成のためなら手段を選ばない姿勢は、イシェの心に不安を植え付けていたのだ。
宝箱の錠が開くと、そこに納められていたのは、古い書物だった。ラーンの期待に満ちた表情が曇り始めた。
「なんだこれ…」
イシェは書物を拾い上げ、そっとページをめくった。そこには複雑な図形と、古代語で書かれた文章が記されていた。
「これは…何か重要な情報かもしれません。もしかしたら、ヴォルダンに関するものかもしれません。」
ラーンの顔色が変わった。「ヴォルダンか…テルヘルが何を企んでいるのか…」
イシェは書物に視線を落とすと、そこに映し出された図形が自分の目に焼き付いていることに気づいた。それは、かつてテルヘルが何度も口にした「反映」の象徴とそっくりだったのだ。
その時、イシェは初めて、テルヘルの真意を垣間見た気がした。彼女は単なる復讐心ではなく、何かもっと大きな計画を抱えているのかもしれない。そして、自分たちはその計画に巻き込まれようとしているのだ。
ラーンの顔には、まだ興奮が残っていた。しかし、イシェの心には、冷たい不安がじわじわと広がっていった。