ビレーの酒場に集まる冒険者たちのざわめきが、ラーンの耳を撫でるように流れ込んだ。イシェはいつものように、彼の肩越しに空気を注視していた。
「また騒ぎを起こしたか?」イシェの声は、かすれた風鈴のようだった。ラーンは苦笑すると、酒の入った杯を口元に運んだ。
「少しだけね。あの傲慢な商人、俺が遺跡から持ち帰った遺物を安値で買い取ろうとしたんだ。そんな奴に俺の宝物を売るわけにはいかないだろう?」
イシェは眉間に皺を寄せた。「また大穴の話か?ラーン、あの話を繰り返すのはもうやめようよ。ビレーの遺跡では、大穴など見つからないって何度も言っただろ?」
「でも、いつか必ず見つかるって信じていたんだ!」ラーンの声は高らかだった。「ほら、テルヘルもそう言ってたじゃないか!あの遺跡にはきっと何かあるって!」
イシェはため息をついた。「テルヘルは違う目的がある。彼女はヴォルダンへの復讐を果たすために、遺物が必要なんだ。それに、あの女の言葉は信用できない。」
ラーンの視線は、酒場の奥へと向く。テルヘルが座るテーブルには、影が深く、彼女の顔立ちをぼやけさせていた。彼女は静かにワインを飲み干すと、そっとラーンの方へ視線を向け、かすかな笑みを浮かべた。
「君たちの力が必要だ。ヴォルダンに牙をむくための武器になる遺物がある。それを手に入れたい。」
ラーンの心は躍った。テルヘルが言ったように、あの遺跡には何かあるのかもしれない。そして、それは大穴ではなくても、彼らを大きく変えるものなのかもしれない。イシェの警告は耳をつんざくようだった。だが、ラーンは自分の胸に秘めた熱い欲望に従うことを決意した。
「よし、行くぞイシェ!あの遺跡に潜ってみよう!」
イシェはラーンの決意を悟り、小さくため息をついた。「わかった。でも、何かがおかしいと思ったらすぐに引き返そう。」
テルヘルの鋭い視線は、二人の後ろを追いかけた。彼女は自分の計画を進めるために、この二者を使いこなすつもりだった。そして、その計画は、やがてエンノル連合の運命を大きく変える反旗へと発展していくことになるだろう。