ラーンの大斧が石壁に深く食い込む音だけが、遺跡の静寂を破った。埃が舞い上がり、彼の顔には汗と grime が混じり合っていた。
「よし、これで開いたぞ!」
ラーンは満面の笑みを浮かべて言ったが、イシェは眉間にしわを寄せながら、壁の奥深くを見つめていた。
「深すぎるんじゃないのか? いつもより」
「大丈夫だ、イシェ。今回は大物が入ってる感じがするんだ。ほら、あの光!」
ラーンの指さす方向には、壁の奥から薄っすらと光が漏れていた。だがイシェの目は光よりも、ラーンの顔に映るその光に引きつけられていた。まるで、彼の瞳の中に反射するかのようだった。
「あの光は…何か変だ」
イシェは不安を覚えた。いつもなら興奮気味なラーンも、今回はどこか様子が違った。まるで、その光に何かを映し出されているかのように。
その時、背後から冷たい声が響いた。
「見つけたようですね。いい仕事です、ラーン」
テルヘルが近づいてきて、壁の隙間から覗き込んだ。彼女の目は鋭く光り、その奥には冷酷な意志が宿っていた。
「この遺跡はヴォルダンに渡るべき物ではない。我々が手に入れるのだ」
テルヘルの言葉に、ラーンは小さく頷いた。しかし、イシェは彼の瞳に映る光を見逃さなかった。それは、かつて見たことのない、どこか狂気じみた輝きだった。まるで、その光の中に、彼自身を映し出す鏡が置かれているようだった。
「ラーン…」
イシェは声をかけたかったが、言葉は喉元で詰まった。ラーンの瞳は、もう彼女を見つめていなかった。そこには、ただ、その光に囚われた彼の姿があっただけだった。