ラーンが石畳の上で足をすくうように転びかけた時、イシェの鋭い視線を感じた。薄暗い路地裏の壁際に崩れ落ちそうになるほどの勢いで倒れそうになったのだ。慌てて手をついて立ち上がったラーンは、イシェから投げかけられた冷ややかな視線を浴びながら、「何だ、イシェ?こんなところで転ぶくらい恥ずかしいか?」と不機嫌そうに言った。
イシェは眉をひそめて「そんなことより、もっと気をつけろ。あの遺跡の入り口はすぐそこだぞ」と、低い声で注意した。ラーンの背後には、薄暗い路地を抜けるとすぐに、崩れかけた石造りの遺跡の入り口があった。
「ああ、分かってるよ、分かってる」とラーンは不機嫌そうに言ったが、イシェの言葉は彼の心に少しだけ引っかかったようだ。彼は、いつも通り無計画に歩き回っていたことを反省した。
テルヘルは、その様子をじっと見ていた。彼女はラーンの不注意さに業を煮やしているようにも見えたが、その瞳には何か別のものを感じ取ることができた。まるで、彼の中に眠っている何かを見抜こうとしているかのようだ。
「さあ、入ろう」とテルヘルが言った時、ラーンはイシェの視線を感じながら、遺跡へと足を踏み入れた。彼の背筋に冷たい風が吹き抜け、不吉な予感がした。
彼は、あの日以来、自分の背中に何かが張り付いているような気がしていた。まるで、自分がどこへ行くにも、誰かと共に歩んでいるかのように。その感覚は、まるで反り返るように重い影を背負っているようだった。