ラーンの大柄な体躯が遺跡の入り口に収まらないように、イシェが後ろから押し込む。狭い通路を進むにつれて、湿った土と石灰の臭いが鼻腔をくすぐる。ラーンはいつも通り先陣を切って進んでいくが、イシェは彼の一挙手一投足に気を配りながら続く。
「本当にここに入る必要があるのか?」イシェの声は薄暗い通路に響き渡る。「あのテルヘルが言うには、ただの破損した壺らしいじゃないか。」
ラーンの背筋から冷や汗が滲む。彼はいつも通り、何の根拠もなく、テルヘルの言うことを鵜呑みにしているのだ。イシェの鋭い眼光を背中に感じるたびに、その無謀さに後悔する。だが、一度決めたことはやり通すのがラーンの性だ。
「大丈夫だ、イシェ。きっと何か見つかるさ。」と彼は強がりを言うが、自分の声にも自信がない。
通路は次第に狭くなり、天井は彼らの頭上に迫ってくる。イシェは背筋を反らせ、体を小さくして進む。ラーンは壁を這うようにして進むが、それでも石が体にぶつかり、痛みに顔を歪める。
「おい、ラーン、ちょっと待ってくれ。」イシェの声がする。彼は振り返ると、イシェが壁に何かを見つけたようだ。「ここだ!」
イシェの指さす方向には、壁に切り込んだ小さな隙間があった。隙間から差し込むわずかな光が、埃っぽく輝く。テルヘルは言った。「あの壺は、この隙間の奥にあるはずだ。」と。
ラーンの心臓が激しく鼓動する。緊張感と期待感が彼を包み込む。イシェは慎重に隙間を覗き込み、小さな声を出す。「確かに何かがあるようだ。でも、狭くて入れない。ラーン、お前が入らなければならない。」
ラーンの視界には、イシェの不安な表情が浮かぶ。彼は深く息を吸い込み、胸の奥底にある熱いものが湧き上がってくる。反るように身を屈め、隙間へ入っていく。狭い空間で体中の骨が軋むような感覚。だが、ラーンは一歩一歩、前へ進む。
「見つけたぞ!」
彼の声が、狭い隙間の奥から響き渡る。