「よし、今日はあの崩れた塔の奥深くまで行ってみるか」
ラーンの豪快な声に、イシェはため息をついた。いつも通り、彼の計画性のない発想に呆れ返っているのだ。
「また遺跡探検?ラーン、本当に宝探しができると思うのかい?」
イシェの問いかけに、ラーンは自信満々に笑った。
「ああ、必ず見つかるさ!いつか俺たちはこの街を出て、大きな家に住んで、おいしいものを好きなだけ食うんだ!」
その言葉に、イシェは少しだけ心が温かくなった。ラーンの夢は、どこか幼稚なように思えるが、彼の純粋さはイシェの心を癒すものだった。
「わかった、行くよ。でも今回は無理はしない約束ね」
イシェはそう言って、ラーンの後ろをついていった。
崩れた塔の内部は暗く、埃っぽい空気が漂っていた。彼らは懐中電灯の光を頼りに、慎重に足を進めた。
「ここには何かある気がするぞ!」
ラーンが突然声を上げると、イシェは心臓が飛び上がりそうになった。ラーンの指さす方向には、壁に埋め込まれた石板があった。
「これは…?」
イシェが石板に近づくと、表面に複雑な模様が刻まれていた。
「これは古代文字だ!」
その時、背後から声がした。
「素晴らしい発見ですね」
振り返ると、テルヘルが立っていた。彼女はいつも冷静沈着な表情で、ラーンとイシェを見下ろしているように見えた。
「テルヘルさん、いつからここに…」
イシェが驚いて尋ねると、テルヘルは薄く微笑んだ。
「ずっと見ていました。この石板、重要な情報を持っているはずです」
彼女は石板を丁寧に撫でながら言った。
「この遺跡には、ヴォルダンと関係のある秘密が隠されている可能性があります。そして、その秘密を知る鍵がこの石板にあるのです」
テルヘルの言葉に、ラーンは興奮した様子を見せた。イシェも、どこかで彼女の計画の一部になっていることを悟った。
「つまり、私たちはこの石板を解読して、ヴォルダンに復讐するための情報を得る必要があるんですね…」
イシェは呟き、テルヘルに視線を向けた。
「そうです。そして、その過程であなたたちと友人関係を築きたいと思っています」
テルヘルの目は冷たく光っていたが、イシェは彼女の言葉に少しだけ希望を感じた。
もしかしたら、この遺跡探検は単なる宝探しではないのかもしれない。