「準備はいいか?」
ラーンが重い剣を肩に担ぎながら、イシェに尋ねた。朝の薄暗い空の下、ビレーの街はずれにある遺跡へと続く道が彼らの前に広がっていた。
「いつも通り、大穴が見つかるまで帰らないつもりかい?」
イシェは小さくため息をつきながら、地図を広げた。ラーンの無謀さと楽観性には、いつも呆れていた。
「いや、今回は違うぞ!」
ラーンは自信満々に言った。「今回はテルヘルが一緒だ。あの女なら何か知ってるはずだ。」
テルヘルはヴォルダンとの因縁から遺跡探索に協力していた謎の女性だった。冷徹で目的のためなら手段を選ばないタイプだが、その知略と戦闘能力には一目置かれていた。
「まさか、あのテルヘルがそんな大穴を知っているとは思えない…」
イシェは眉をひそめた。テルヘルはいつもどこか陰のある表情をしている。彼女が何を求めているのか、イシェには見通せなかった。
遺跡の入り口に差し掛かる時、テルヘルが立ち止まった。
「ここだ。」
彼女の視線は遺跡の奥深くへと向けられていた。そこに何かがある、と確信したような声だった。
遺跡内部は暗く湿っていた。足元には崩れかけた石畳が広がり、天井からは滴り落ちる水が不気味な音を立てていた。ラーンは剣を握りしめ、イシェは慎重に周囲を観察しながら進んだ。テルヘルは先頭を歩き、どこか急かされるような様子だった。
奥へ進むにつれて、遺跡の壁には奇妙な文字が刻まれていた。イシェはそれらを解読しようと試みたが、見慣れない記号ばかりで意味を理解することはできなかった。
「これは…」
イシェが声を上げる前に、テルヘルが突然立ち止まった。彼女の顔色が変わったように見えた。
「ここだ。」
彼女は再び言った。「ここに何かがある。」
そして、彼女は壁の一点を指差した。そこには、他の部分とは違う形の石が埋め込まれていた。まるで、何かを隠しているかのように。
ラーンの手は震えていた。
「これは…大穴か?」
彼は興奮気味に言った。イシェも息をのんだ。確かに、あの石の形は、噂に聞く大穴の鍵に似ていた。
テルヘルは静かに頷き、石に触れた。すると、壁がゆっくりと回転し始めた。その奥には、漆黒の空間が広がっていた。
「さあ、行くぞ。」
テルヘルは言った。そして、三人は未知の世界へと足を踏み入れた。
彼らの前に広がるのは、想像を絶する光景だった。それは、かつて偉大な王国が存在した証であり、同時に、ある王の野望と悲劇の物語を秘めた場所だった。そして、その中心には、真の姿を隠した王座がそびえ立っていた。
「これは…」
ラーンの声が震えた。イシェも言葉を失った。
テルヘルは静かに微笑んだ。
「これが、私が求めていたもの。」