ビレーの酒場にはいつもより活気がなかった。ラーンがいつものように大声をあげて酒を煽っても、周りの視線は冷たかった。イシェが眉間に皺を寄せながら彼の様子を観察していた。
「どうしたんだ、ラーン。今日は何かあったのかい?」
ラーンの目は虚ろにグラスの中を見つめていた。「ああ、あのな。今日の遺跡探検でまた大穴を見つけたんだって…」
イシェはため息をついた。「またか…」。ラーンはいつもそうだった。遺跡探検に行くと、必ず「大穴」を見つけたという話を持ち帰る。だが、それはいつもただの空洞に過ぎなかった。
「今回は違うんだって。今回は本物の大穴だと言ってるんだ!」ラーンの声が少し高くなった。「奥深くまで続く洞窟で、壁には不思議な模様が刻まれていて…」
イシェは彼の熱意を理解しようとした。だが、過去の経験から、ラーンの興奮はすぐに冷めてしまうことを知っていた。
「でもな…」とラーンは言葉を続けた。「その洞窟の入り口付近にヴォルダンの兵士たちが何人かいるんだって。」
イシェは少し驚いた。「ヴォルダンか…。一体何をしに…」
「理由は分からんが、何か掘り出そうとしているらしい。あの兵士たちは遺跡探検隊じゃないみたいだ。」ラーンの表情は真剣になった。「もし、本当に大穴が見つかったら、ヴォルダンに奪われてしまうかもしれない…」
イシェは深く考え込んだ。ヴォルダンとエンノル連合の関係は決して良好とは言えなかった。最近では国境での小競り合いも増えているという噂を耳にしていた。
「あの兵士たちは一体何を手に入れようとしているのか…」イシェの脳裏には、ラーンの言葉と、ビレーの酒場の冷えた空気が重なり合った。彼女は、この事件がエンノル連合全体に波及する可能性を感じ始めた。