「よし、今日はあの崩れた塔だ。噂によると地下に何かあるらしいぞ」ラーンが目を輝かせると、イシェは眉をひそめた。「また噂話か?そんな薄っぺらな情報で遺跡に潜るなんて無駄だ」
「無駄じゃないよ!いつか大穴を見つけるんだ!それに、あの塔にはまだ誰も入ったことがないって話だよ。未踏の地には必ず何かがあるはずだ!」ラーンの言葉は熱く、イシェの理性的な思考を揺さぶる。
「未踏の地、か。確かに魅力的だけど…」イシェはため息をつき、視線をテルヘルに向けた。「あなたはどう思います?」
テルヘルは沈黙し、地図を広げたままだった。彼女の目は地図に描かれた塔を見据えているが、その奥には何か別のものが見えていたようだった。
「あの塔か…確かに興味深い。噂を検証する価値はあるだろう」テルヘルは口を開くと、冷静な声で言った。「ただし、今回は慎重に進める必要がある。ヴォルダンに奪われたものは全てではない。私の復讐のためにも、この遺跡には何があるのか正確に知る必要がある」
ラーンの興奮を抑えきれない様子と対照的に、イシェはテルヘルの言葉に耳を傾けた。彼女はテルヘルの目的を理解していた。復讐の炎を燃やすテルヘルにとって、遺跡は単なる宝の探求場所ではない。それはヴォルダンへの復讐を果たすための重要な手がかりとなる可能性があった。
三人は互いに異なる目的を抱えながらも、共通の目標に向かって遺跡へと足を踏み入れる。ラーンの無謀な行動力、イシェの冷静な判断力、そしてテルヘルの冷酷な執念。彼らの出会いは偶然だったが、それぞれの「勘定」が絡み合い、複雑に織りなす物語が始まろうとしていた。