ビレーの酒場「三叉路」は、いつもより活気がなかった。ラーンがいつものように大杯の酒を掲げようとした時、イシェが眉間に皺を寄せた。
「何かあったのかい?」
ラーンの問いかけに、イシェは小さく頷いた。「テルヘルが来ない。いつもなら、こんな時間に遺跡の報告をしてくるはずなのに」
ラーンは少し不安を感じながらも、「あいつは強ぇんだろ?心配するな」と軽く切り捨てた。しかし、心の奥底では、テルヘルの不気味な静けさに一抹の不安を抱えていた。
その頃、テルヘルはビレーから遥か彼方にあるヴォルダンの要塞都市へと向かっていた。彼女は、かつてヴォルダンが奪ったもの、そして自分の人生を奪ったものを取り戻すために、秘密裏に動き始めていたのだ。
彼女の計画には、ラーンとイシェの存在が不可欠だった。彼らの遺跡探索能力と、その無邪気な行動力は、テルヘルにとってかけがえのない武器となった。
しかし、計画は容易ではなかった。ヴォルダンは強大な軍事力を有し、情報網も密だ。テルヘルは、慎重に計画を進めながら、ラーンとイシェを巻き込みすぎることのないように注意深く距離を保っていた。
一方、ビレーでは、ラーンの無謀な行動が新たな危機を引き起こしていた。彼は、テルヘルの不在中に、未開の遺跡へ単身で挑もうとしていたのだ。イシェは必死にラーンを止めようとしたが、彼の決意は固く、結局、ラーンは一人で遺跡へと向かって行った。
イシェは、ラーンの無謀さに呆れながらも、彼を信じたいという気持ちに葛藤していた。そして、彼女の心の中に、テルヘルとの約束を思い出した。
「あの遺跡には、ヴォルダンの秘密が隠されているかもしれない…」
イシェの言葉に、テルヘルはわずかに頷いた。その目は、復讐よりもはるかに大きな何かを秘めているように見えた。それは、世界を変えるような力、そして、新たな時代の勃興を予感させるものだった。