ラーンの大雑把な指示に従い、イシェは薄暗い遺跡の奥深くへ進んでいった。石畳はところどころ崩れ落ちており、埃っぽい空気が彼らを包んでいた。テルヘルが雇ったこの遺跡は、かつて栄華を極めた古代文明のものと伝えられていたが、今は朽ち果てた石造りの迷宮となっており、その内部には危険が潜んでいることをイシェは肌で感じていた。
「ここだな」
ラーンが大きな石扉の前に立ち止まった。扉には奇妙な紋様があしらわれており、一部は剥落してしまっていた。
「この紋様が鍵になるらしい」
テルヘルが小さな巻物を取り出して見せた。「だが、その方法については書かれていない…」
イシェは扉の紋様を注意深く観察した。劣化が進み、本来の姿はほとんどわからなくなっている部分もある。しかし、わずかに残る線や模様から、何らかの意図的な配置を感じた。
「もしかしたら…この扉には複数の鍵が必要なのかもしれない」
イシェが口を開こうとしたその時、ラーンが力任せに扉を押し始めた。
「おい!待て!」
イシェの叫びは届かなかった。扉は重々しく軋みながら開き始めたが、その途中で、石壁から粉塵が舞い上がり、ラーンの顔にかかった。
「くそっ!」
ラーンは咳き込みながら扉を押し続けている。イシェは諦めていたのかもしれないと一瞬思ったが、ラーンの表情からはそんな気配はなかった。むしろ、何かを見つけたかのように、興奮気味に扉の隙間を覗き込んだ。
「おい、イシェ!見てみろ!」
イシェが近づいてみると、扉の奥には広大な空間が広がっていた。そこには、かつて栄華を極めた古代文明の遺物や遺跡が残されていたはずだった。しかし、その光景は、イシェの想像とは全く違っていた。
壁面は崩れ落ち、床には割れた石片が散らばり、かつてそこにあったはずの豪華な装飾品などは、劣化と崩落によって姿を消していた。まるで、何者かによって荒廃させられたかのような光景だった。
「ここは…一体…」
イシェの声を遮るように、ラーンが大きな声で叫んだ。
「やった!大穴だ!」
ラーンの指さす方向には、崩れ落ちた壁の隙間から、かすかに光が漏れていた。そこには、何かが隠されているようだった。
イシェは、ラーンの興奮とは対照的に、不安な気持ちに襲われた。この遺跡の劣化は自然現象では説明できないものがあった。そして、その背後には、何らかの意図を感じざるを得なかった。