ビレーの酒場にはいつも通りの喧騒が渦巻いていた。ラーンはイシェの眉間にしわを寄せる様子を見て、苦笑いした。
「またあの顔か? 今回は本当に大穴が見つかるかもしれないのに。」
「見つかるとしたら、テルヘルが全部持って逃げるんじゃないかと心配になるのよ」
イシェはそう言うと、テーブルに置かれた粗末なパンを小さく切った。ラーンの豪快な笑い声が、酒場の騒音に紛れ込んで消えていった。
「心配するなよ、イシェ。テルヘルも俺たちには必要なんだ。あの女だって、俺たちと何かしらの繋がりを感じてるはずだ」
ラーンはそう言いながらも、テルヘルの目的が自分たちに何をもたらすのか、よく分からなかった。彼女はいつもどこか冷めた目で周囲を見回し、自分の言葉以外を信用しないようだった。だが、その鋭い眼光には、何か強い力を感じさせるものがあった。それは、ヴォルダンへの復讐という目標を前に、彼女を突き動かす圧倒的な意志の力なのかもしれない。
「よし、今日はテルヘルの言う通りにやろう」
ラーンは立ち上がり、イシェの手を取り引っ張った。「さあ、準備だ! 今日の遺跡探検で、俺たちは必ず何かを見つける!」
イシェはラーンの熱意に押され、小さく頷いた。二人は酒場を後にする時、テルヘルが彼らをじっと見つめる姿が目に入った。その瞳には、まるで二人の運命を左右する力を持つかのような光が宿っていた。