「よし、今日はあの崩れた塔だな」ラーンが地図を広げ、指を動かした。イシェは眉間にしわを寄せながら、地図の汚れを落とした。「また危険な場所か?あの塔は噂では呪われているぞ」
「呪いなんて気にすんな。俺たちにはテルヘルがいるだろ」ラーンは豪快に笑った。テルヘルは鋭い眼光で二人を見据えた。「今回は慎重に。ヴォルダンとの取引で手に入れた情報によると、その塔には強力な魔物が封印されているらしい」
ビレーを出発して数日後、彼らは崩れかけた石造りの塔の前に立った。塔の上部から不気味な音が聞こえてくる。イシェは不安そうにラーンの腕に手をかけた。「本当に大丈夫かな?」「大丈夫だ。俺たちが守るから」ラーンは笑顔で答えたが、彼の瞳には少しだけ緊張の色が浮かんでいた。
塔の内部は暗く、湿った空気でいっぱいだった。壁には奇妙な模様が刻まれ、床には古びた骨が散らばっていた。彼らは慎重に足を進め、深い闇の中に進んでいった。
「何かいるぞ!」ラーンの叫び声が響き渡った。影の中から巨大な怪物が現れた。それは漆黒の体と鋭い牙を持つ恐ろしい魔物だった。
「逃げろ!」テルヘルが剣を抜き、魔物に突進した。ラーンも後を追うように剣を抜いた。イシェは二人が魔物に挑む姿をじっと見つめていた。彼女の心には恐怖だけでなく、何か別の感情が芽生えてきていた。それは創造の衝動だった。
彼女は自分の持つ知識と経験を駆使し、魔物の弱点を探ろうとした。そして、あることに気づいた。魔物の体から発せられる光は、まるで音楽のようなリズムを持っている。
イシェは急いで小さな石を拾い上げ、地面に叩きつけた。その音は魔物の光のリズムと合致した。すると魔物は一瞬怯んだ。イシェはさらに石を叩きつけ、リズムを作り出すことを繰り返した。
ラーンとテルヘルは隙を見て魔物に攻撃を加えた。魔物は苦しげに唸り声を上げ、ついに倒れた。三人は息を切らしながら互いに顔を見合わせた。
「イシェ、お前が魔物を倒したんだ」ラーンの声は驚きの色を帯びていた。「まさか、音が魔物の弱点になるなんて…」テルヘルも目を丸くしていた。イシェは照れくさそうに笑った。「偶然だったけど、何かを感じたんです。まるで…創造するような感覚が」
その時、イシェは自分の未来について深く考えるようになった。遺跡探査という枠にとらわれず、創造の力を使って世界を変化させることができるかもしれない。その可能性に、彼女は胸を躍らせていた。