「よし、ここだ！」ラーンの低い声がビレーの街並みを背に響いた。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の指さす方向を見つめた。崩れかけた石造りの門が、雑草が生い茂る遺跡へと続く入り口だった。
「またか…この程度のリスクで何か見つかるわけがない」イシェの呟きは風に乗ってすぐに消えていった。ラーンは気にせず、興奮気味に剣を構えた。「よし、準備はいいか？」
テルヘルは冷静な表情のまま頷き、彼らに続くように遺跡の中へと歩みを進めた。彼女の足取りは確実で、荒れ果てた石畳の上でも音を立てずに進む。イシェはテルヘルの後ろを歩きながら、彼女がいつも持ち歩いている黒革の satchel をちらりと覗き込んだ。そこには地図や書物だけでなく、小さな瓶に入った謎の液体なども入っていた。一体何のために…？
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。壁には苔が生え、天井からは石が崩れ落ちている箇所もあった。ラーンは目を輝かせながら、壁に刻まれた奇妙な模様を指差した。「これは…見たことないシンボルだ！」
イシェは懐中電灯の光を当ててよく見ると、確かに今まで見たことのない複雑な模様だった。しかし、興奮するラーンの様子とは対照的に、イシェには不吉な予感がした。
「何か変だな…」イシェが呟くと、その時、地面から何かに足を引っかけて転んでしまった。ラーンは慌てて手を差し伸べようとしたが、その瞬間、床の石畳の一部が崩れ落ち、深い穴が現れた。
「うわぁ！」ラーンの悲鳴が遺跡にこだました。イシェは彼の手を掴もうとしたが、間に合わず、ラーンは穴の中に姿を消してしまった。
「ラーーン！」イシェとテルヘルは同時に叫んだ。穴の淵をのぞき込むと、深い闇の中、ラーンの姿が見えない。
「何があったんだ…？一体どこへ落ちていったんだ…」イシェは恐怖を感じながら、テルヘルの顔を見た。しかし、テルヘルの表情は冷静そのものであった。
「これは…」テルヘルは小さく呟き、 satchel から小さな瓶を取り出した。瓶から液体を取り出し、地面に注いだ。すると、液体が床に落ちた瞬間、光を発し、奇妙な模様を描き始めた。
「何だ…？」イシェは驚き、目を丸くした。その模様は、ラーンが指さした壁のシンボルと酷似していた。
テルヘルはゆっくりと口を開いた。「これは…創発現象だ。遺跡の奥深くで何かが起こっている。そして、ラーンの存在がそれを活性化させている…」
イシェは恐怖と興奮が入り混じる複雑な感情に襲われた。ラーンを救い出すためには、この謎の創発現象と向き合わなければならないようだ。